7 小学校六年 愛媛にて
戒能良子は考えた。
自分の人生これで良いのかと。
順風満帆な人生ではあると思う。代々神職をする家系に生まれた。霧島神境の滝見本家から嫁いできた母からは、巫女の力を受け継いだ。当代の姫を守護し、補佐する役目を担う『六女仙』は代々霧島の巫女から選ばれるが、外様の巫女にも関わらず良子は候補に上った。
ここ半世紀ではただ一人の快挙であるという。
結局、当代の姫が良子の3つ下ということもあり、より年齢の近い中から六女仙は選ばれることとなりその話は流れてしまったが、候補になったという事実が良子の才能ある巫女という評判を確固たるものとした。
その才能に恥じない努力は続けてきたと自負している。巫女としての力は高まり、依然として六女仙にも引けを取らない力を維持しているが、巫女として一生を終えることがほとんど確定している彼女らと違い、良子はまだ将来のことを決めていなかった。
好きで続けている麻雀でプロになれるか、それが指針の一つにはなるだろう。巫女と同じで才能があると言われてはいるが、まだ明確な結果は残せていなかった。
中学の時の最高成績は個人戦で全国4位。好成績だとは自分でも思うが、結局全国制覇をすることはできなかった。大分上の世代の小鍛治健夜や、少し上の三尋木咏に比べれば見劣りする成績である。女子プロは圧倒的な実力を持つその二人によって牽引されていた。新人はしばらくあの二人と比較され続けることだろう。
神境でバケモノを見慣れている良子にも、あの二人は正真正銘のバケモノに見えた。自分を凡才とは間違っても思わないが、このまま真面目に修行を続けても彼女ら二人に勝てるビジョンがまるで見えないのだ。
だからと言って麻雀をやめたりはしないが……目の前の壁が高すぎるというのも、乗り越える側としては考え物なのだ。
ふぅ、と良子の口から大きな溜息が漏れた。将来のことを考えていたら、何だか疲れた。何というか、癒しが欲しい。
「……どこかに金髪で気配りができて私よりも年下で得意料理が肉じゃがな美少年が落ちてないかな」
それははっきりと良子の本心だったが、冗談と解釈した友人たちはまた妄言を言ってると呆れ果てた。その態度に、良子はカチンときた。
「じゃあなんだい。お前たちは美少年にときめかないのかい」
「ときめくけど、戒能は属性盛りすぎ。いまどき漫画でもそんなパーフェクト美少年出てこないって」
「事実は小説よりも奇なりと言うじゃないか。漫画に出てこないなら、きっと現実に現れる前振りに違いないよ」
良子の物言いに、旧友達は揃って溜息をついた。良子とて、何も本気で信じている訳ではない。そうでも言わないとやっていられない現実があったからだ。
神代本家を中心とする神境系の巫女の一族は、女系一族として有名である。加えて何故か女が生まれる確率が高く、一族の血を引いた男は非常に少ない。よって外部から婿を取ることが多いのだが、婿として入れば弱い立場になるとわかっていて来てくれる男はあまり多くない。結果、親戚同士で見合い結婚なり恋愛結婚をする訳だが、女ばかりの一族では男の数は限られている。
故に、結婚しないまま一生を終える巫女も少なくない。神境の外の巫女である良子は、神境の巫女たちほど境遇は悪くないが、巫女という不思議パワーを持っていることは中学でも何故か広く知られており、高校でもまた同様だった。周囲には同性ばかりで、今まで誰とも付き合ったことはない。
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