ハーメルン
犯罪者になったらコナンに遭遇してしまったのだが
其の十三:「切り裂きジャックとホームズ」

「幾世あやめさん、あの月下の魔術師と手を結ぶことができましたよ。まあ、かなり使い勝手は悪そうですが」
「そうか…………………え?」

なんか幻聴が聞こえたんですけど。

えっ? 本当に幻聴が聞こえたぞ…。あのキッドが私の仲間になったという幻聴が…。ヤバイ、今世の身体はまだ二十代後半なのにもう老化現象が起きているのかな? うん、うん、これは老化だ。耳が悪くなってきたんだ、きっと。そのせいで幻聴が聞こえてしまったんだね!

内心でハハハハハとアメリカンに笑ってみせる。自分を落ち着かせるために唇へティーカップを近づけた。その瞬間、森谷帝二さんが私へ何かを差し出してくる。

「あの怪盗が友好の証として、こちらのトランプを渡してきました」

目に入ったのはキッドマーク入りのジョーカー。

――――幻聴じゃなかった! 本当にキッドが仲間になってらァ!!

右手に握りしめるティーカップがガタガタ震える。顔がヒクヒクと動いた。それをなんとか根性で押さえつけながら、私は心の中で頭を抱える。

(ちょ…待って、本当に待って?!)

なんでキッドお前、私の仲間になってんだ……?! おかしいだろ……?! お前は人殺しの仲間にはならないタイプじゃねーか。お前の心の中でどんな化学変化が起きたんだよ…クーリングオフはできないんですか…? 仮にもキッドは別作品の主人公だから、こんなことは言いたくないけど…返品したい!! 切実に返品したい…! オメーの協力なんて一番いらないんだけど!! 恐ろしすぎる!! 一体何を考えてんだあの天才…?! やべ、恐怖で鳥肌が…!

(もっ、餅つけ私! いや、落ち着け私!)

理由、そう、理由! どうしてこうなったか森谷帝二さんに聞くんだ! 私はキッド関連について森谷帝二さんに丸投げしているからな。彼なら全貌を把握しているだろう。理由を聞けば少しは私も落ち着けるはずだ。現実は変わらないけど。

「教授、」
「まさかキッドを味方につけるとは。しかし、少々不可解です。彼が仲間になるのは我々にとって不利になるでしょう。何故、キッドをお選びに?」

知らねーよ!
勝手に仲間になってたんだよ!!

心からの叫びだった。思わず私は右手で顔を覆ってしまう。大きな溜息を吐きたい気分だった。この一連の『キッド仲間入り事件』が不可解すぎて胃痛がしてくる。ああ、胃薬、足りるかなあ……色々と森谷帝二さんにツッコミたいよう…。『キッドを仲間にすると決めたのはお前の判断じゃないの?』とか、『どうして私の判断ということになってんの? そもそもどうやってキッドを仲間にしやがった?』とか沢山言いたいことがあるけど…。

だが、仲間になっちゃったもんは仕方がねぇ!

(つーか、今更、キッドに対して『やっぱやめてください』とか言う方が怖い)

キッドが何してくるか分かんねぇからな。もしかしたら何か意図があって組織に入ったのかもしれないし。キッドを無理に辞めさせたら何か彼からの報復が来そうで怖い。え? キッドは報復なんてしてこない? バッカおまっ、私だぞ?! ただの人殺しの私だぞ?! そんな奴にキッドが慈悲を与えるわけねーよ! ぜってー警察に突き出されるのが関の山! いや、警察ならまだマシかもしれない。東都湾に沈められる可能性がある! あいつ案外えげつねーことしてくるからな?!

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