其の九: 「ミステリートレインには乗るな(下編)」
(いた。丁度森谷帝二さんが向こう側からの廊下から歩いてくる)
運がいい。変装した森谷帝二さんを早めに発見できたなんて。私は内心で笑う。
ベルモットと別れた後のことを少し話そうか。あの後、私は即行でトイレへ入室。そして、メモ用紙に暗号文を書き出した。その後、すぐにトイレから退出。森谷帝二さんがいそうな場所を必死で探した。
(今回の依頼の詳細をもっと聞いておけばよかった…)
先程言ったように、今回は依頼の詳細を殆ど知らない。ああ…私の馬鹿…。でも、下手に詳細を知りすぎていたら、探偵共に勘付かれるかもしれないからなあ…。もしかしたらコナンたちにトリックの内容を無意識にうっかり言ってしまうかもしれない。一瞬のミスが命取りになっちゃうコナン世界マジ怖い。
『やべえ、早く見つけよう』と焦りながら森谷帝二さんを探した。結果、なんとか早めに森谷帝二さんを発見できたのだ。
(すれ違いざまにハンカチを落とそう。そのまま姿を消せばミッションコンプリートだ)
私は森谷帝二さんを視界に入れないようにしながら、前だけを見る。彼とすれ違う瞬間に肩を『敢えて』ぶつけた。
「ああ、すみません」
「いえ、大丈夫です」
そして、私はメモ用紙が入ったハンカチを落とす。自然に、本当にうっかり落としてしまったかのように。ベルモットから教わった全てを出し切り、私はハンカチを落としてみせる。終わった後は早足でその場を去った。他の人達に見つかれば注意される可能性があるからな。その後、私は友人と自分が予約した列車の部屋へ戻る。
(ミッションコンプリートォ!)
内心でガッツポーズをした。これで大丈夫だろう。部屋でホッと息を吐きながら、着席する。ドッと疲れが出てきた…。座席に全身を沈めた。そして、気を紛らわせる為に外の景色を眺める。
何十分かそうしていると、友人がトイレから帰ってきた。げっそりとした様子の友人に、申し訳ない気持ちになる。下剤を飲ませたのはこの私です。利用してごめんな…でも、仕方がないんだ…。そう考えながら、私は心配そうな顔を作った。
「お帰り〜お腹、大丈夫…?」
「うう…あやめ、ほんっっっっとにごめんね…なんか死ぬ程お腹の調子悪くて…」
「結構酷いみたいだね…。今日は謎解きには参加しないで、部屋でゆっくりしよ?」
「いいよいいよ! あやめは一人で参加してきなよ!」
そう友人が言った瞬間だった。放送が車内に響き渡ったのは。
《お客様にご連絡致します。先程、車内で事故が発生しました為、当列車は予定を変更し、最寄りの駅で停車することを検討中でございます》
「ファッ?!」
「ええ?! 事故って何? はー…今日はお腹の調子も悪いし、列車も止まるみたいだし、最悪だ…」
自分の顔がサッと青くなるのが分かった。友人が項垂れている姿を尻目に入れながら、私は頭を高速で回転させる。じわりと額から汗が滲む。若干手が震え始めた。
(この放送が流れたということは――――)
――――事件が起きたんだ。
何故?! 確実に私は森谷帝二さんにメモを渡した。暗号文も間違いなかったはずだ。もしかしたら彼が犯人を止める時間がなかったのか? いや、ギリギリ間に合ったはずである。あの程度なら優秀な森谷帝二さんなら軽々やってのけるだろう。なのに何故? 何故だ?! 不具合でも起きたか? ええ…不具合とか考えるだけで恐ろしいのだが!
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