2.怪人達の夜
シェリー・T・サザンクロスの朝は早い。
日が昇るよりも早く起床して身支度を整え、町の人々が起き出す頃には玄関先や門の前の掃除を行い綺麗にしておくと、ようやくそこで起き出すユノのために朝食を用意する。
朝食が終わればシェリーは知人の邸宅で家事手伝いや子供達に文字や算学を教えたりする家庭教師の仕事をしに、ユノは街へと赴き靴磨きなど子供でもできる仕事で金を稼いで教会に入れる。教会に帰れば、眠りに就く前にシェリーはユノに文字や算学などの知識を教えていざという時の力を与える。そうしてその日を必死に生きてから、ようやく二人は仲良く一つの布団に入るのだ。
このような寂れた教会にお布施にくるような者どころか尋ねる者すら滅多にいないため残る理由などないのだが、慣れ親しんだ場所をできるだけ離れたくないという愛着が二人には残っていた。
そうして1日のほとんどを労働に費やして横になれば、疲労のために二人は一瞬で夢も見ないほど深い眠りに落ち、すぐにまた朝を迎えて再びシェリーが教会の掃除を行う。次の日も次の日も、シェリーは誰よりも早く目を覚まして箒を手に取り、愛しき我が家を丁寧に磨くのだ。
◆ ◇ ◆
「……それ、流石に働きすぎなんじゃないですか? 無理してないか心配ですよ」
「心配させてるのはアレンも同じです。それ外したら借金取りに見つかっちゃうですよ。気をつけるです」
ピエロの覆面をかぶり、カラフルで滑稽な衣装を纏ったアレンに向かって様々な大きさのボールを投げ渡しながら、修道服から地味な普段着に着替えたユノは呆れたように返す。アレンが渡されたボールを器用に足で受け止めてジャグリングの輪に加えていく度に、周りから感嘆の声が上がりチャリンチャリンと小銭が投げ渡されてくる。アレンは玉の上で器用にジャグリングしていたものをまとめると、ぺこりと観客に向かってお辞儀をし喝采を浴びた。
アレンが人目を引いて客を集めてくれるおかげで、ユノの方にも靴磨きを希望するお客が集まっていきいつもより多く銭が集まっていく。内心ほくそ笑むユノは、思っていたより芸達者なアレンに感心するように笑った。
「意外な特技なのです。サーカスにでもいたのですか?」
「あ…………はい、小さい頃に引き取られて、そのあとは養父と一緒に旅をしながら……師匠に会ってからは路銀稼ぎと借金返済のため、ですかね?」
「……改めて聞くと不憫すぎるのです」
半目で目をそらすユノは、以後は金銭について関わる質問はできるだけ避けようと心に決める。アレンが質問に答えた瞬間、どんより黒々とした雰囲気が溢れ出したためだ。
ただそれ以外にも、幼少の時と養父に関する答えの時にまた違った気配を放っていたため、なるべく昔についての詮索はよそうと考えた。
客足が落ち着き、暇ができた腕を組んだユノが一人会話に悩んでいると、アレンがふとユノに疑問の目を向けた。
「……ところで、どうしてお二人はあんなところで暮らしているんですか? 二人で暮らすにはかなり不便に思いますけど……」
アレンの問いに、ユノは少し悩むように首を傾けて考え込み、んーと声を漏らす。
「ユノは姉様と同じ時にあの教会に引き取られたですけど、あんまりわかんないです。でも、姉様もユノもちょっと前に往生したマザーにとてもお世話になっていたです。多分、その恩が忘れられないのです」
いってからユノは「それに…」とどこか寂しげにアレンの方を向き、儚げな微笑みを浮かべて頭をかいた。
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