第15話 ラインへの帰還
硝煙煙る灰色の大地を眼下に収め、わたしは懐かしい空気を感じます。
かつては一度死を覚悟した事もある、あのラインの空に再び戻ってきました。
北方に目処が着いた今、帝国にとって片付けるべきはラインのみ。
そこに遊撃部隊であるわたし達が赴くのは、当然と言えるでしょう。
とは言え本日はいつかの様に塹壕に籠もっての観測任務では無く、対地支援戦闘。
敵陣地まで飛んで行き、強襲するだけの簡単なお仕事です。
航空魔導師の面目躍如と言った所でしょうか。
しかも敵魔導師も無く、対空砲火も少ないとくれば、油断はせずとも安心は出来ると言う物です。
わたし自身もあの時よりも多くの戦場を経験し、成長していると思いますし。
それに共に飛ぶのも、一緒に生き残って来た頼もしい仲間たち。
何より今回はターニャと一緒です。
しかし、そのターニャがとんでもない事を言い出しました。
何と五分間の砲撃支援を要請、しかもわたし達が突入後も止む事は無いそうです。
ターニャ曰く、
「あれだけ対砲兵訓練を積んだ挙げ句、友軍の砲弾にわざわざ当たる間抜けなど我が大隊には存在しない」
との事ですが、それとこれとは話が違うと思うのです。
ほら、ヴィーシャなんて顔が引きつってますよ。
自軍の砲陣地に帝国軍魔導師が強襲を掛けて来たとの報告を受け、共和国第一八師団第二魔導大隊は即座に迎撃に上がる。
ここラインにおいては最早日常と化した出来事だ。
その日も、いつもと何一つ変わらない仕事のはずだった。
しかし直後に管制から聞こえて来た報告に驚愕する事となる。
何と帝国軍魔導師の上から帝国軍の砲撃が降り注いでいると言うのだ。
誤爆か?
即座にそんな思いが浮かんで来た。
最前線の混乱した状況では有り得ない話では無い。
実際、確報では無いものの先日共和国軍の砲撃により友軍が吹き飛んだと言う噂が流れている。
いや司令部の面子を考えれば、噂があると言う時点でそれは事実なのだろう。
しかし聞けばどうやら今回は違うようだ。
帝国軍の砲撃は共和国軍を的確に撃ち抜き、更にその中で帝国の魔導師は平然と攻撃を続けていると言うのだ。
有り得ないだろう。
自殺行為以外の何物でも無い。
いくら帝国軍魔導師とは言え、そんな事が出来る部隊が存在するとはにわかに信じがたい。
その後、データ照合により敵部隊にネームドがいる事が判明。
登録名《ラインの悪魔》。
数年前流行った戦場伝説の一つだ。
開戦当初の混乱に生じた冗談だと思っていたし、実際一年以上確認されていなかった。
それがまさか実在したとは。
だがそれならば納得も出来ようものだ。
今から自分たちが相対するのは、間違いなく悪魔のような存在なのだろう。
しかもどうやら悪魔は一人では無いらしい。
詳細は不明だがもう一人ネームドクラスがいるようだ。
最低でもエース・オブ・エースは覚悟しておけとの事だ。
全く、今日は厄日だな。
そう思わざるを得なかった。
大隊に補充要員が配置されるとの連絡があったのがつい先ほど。
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