第3話 プロパガンダ
画面の向こうの皆様ご機嫌よう。
“白銀”ターニャ・デグレチャフ魔導少尉だ。
甚だ遺憾ながら、公式にこう名乗る事が決定付けられている。
しかし一体何故こんな事になったのだろうな。
北方で研修中に中隊規模の敵魔導師部隊と戦闘となり、後退も許されず仕方なく交戦、敢闘及ばず戦線離脱。
ここまでは良かった。
完璧なプランのはずだった。
こうして敵前逃亡と戦死の両方から上手く逃れたはずだったのだ。
それが何故か気付いた時には、銀翼突撃章に白銀の二つ名だ。
二つ名だと!
何だそれは!
こんな物、素面で名乗れる程私は恥ずかしい精神構造はしていないのだ!
などと一通り嘆いてみたものの状況が変わるはずも無く、私は大人しく列車に揺られ帝都へと向かっていた。
何でもプロパガンダ用の式典に出席させられるらしい。
実にご勘弁頂きたい。
英雄扱いなどされては後方勤務が遠ざかる所か、前線で使い潰されかねないではないか。
大体帝国は一体どういう意図でこのプロパガンダを行うのだ。
こんな子供を戦争に送っていると大々的に発表した所で、周囲の反応は推して知るべきだろう。
とは言えこれも命令である以上、背くと言う選択肢は無い。
暗鬱たる思いで隣を見やれば、何がそんなに楽しいのかえらく上機嫌な同期の姿が目に映った。
「どうしたのですか、ターニャ?」
「いや……。ティナは随分楽しそうだな……?」
「ええそれは勿論!ようやくターニャが元気になりましたし、何よりターニャと一緒ですから!」
「……ああ、そうか」
彼女の名はティナ・アルベルト。
私と同じ孤児院の出身で、歳は十一か十二か、そのあたりだ。
この国では特に珍しくもない暗い髪色と、それとは対照的に人目を引く明るい色の瞳が特徴的な少女で、年齢の割にはスラッと背が高い。
実に羨ましい限りだが、何か秘訣でも有るのだろうか。
以前それとなく聞いてみたが、
「ターニャはそのままでいいのです!そのままが一番可愛いのですよ!」
などと妄言をほざきやがったので、二度と奴にこの話をする事は無い。
そんな彼女だが、何故だかやたらと私に好意を持ってくれている。
確かにいくつかの共通点も見られるし、大人ばかりの軍の中では歳も近いと言えよう。
だが何故これほど好意的なのかが分からない。
同じ孤児院出身とは言え、その孤児院時代にはほとんど彼女と話した事など無かった。
私が魔導師としての適性が判明した日、まあ同じ日にティナも魔導師適性が判明した訳だが。
その日に軍人としての道を決めた私にいきなりティナが話し掛けてきたのだが、思えばそれが彼女と初めてちゃんと話した時だった。
その後私の話を聞いて何を思ったのか、私と共に軍に入ると言い出したのだ。
そうして同期として士官学校に入学して以来の付き合いだ。
……なのだが、未だに彼女の事は良く分からない。
実際何を考えているのか良く分からないのだ。
別段、表情が乏しい訳ではない。
現に今、隣にいるティナは楽しげに笑っている。
軍服でなければ、これから遊園地にでも向かうのだと言っても通じるだろう。
では何が分からないのかと言えば、言動がいつも突然なのだ。
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