後悔は人を強くする
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ドンドルマに滞在するハンターの多くは、ゲストハウスと呼ばれる仮住まいに身を寄せている。それは王立古生物書士隊・護衛ハンターことリィタも例外ではない。
本来なら年相応の町娘であるはず彼女の部屋は、少女らしさとは無縁と言っても良かった。カラフルな家具もないし、可愛らしい装飾品も何もない。部屋内は寝具と狩猟道具の詰まったアイテムボックス、鎧や剣といったゴテゴテとした物騒なものに囲まれている。
つい最近増えたクマ型の置き物は、特に役目を果たすことのなかった砂漠調査以降、唯一と言っても良いくらいに彼女の部屋を彩るマスコットとなったくらいだ。おそらく再び身に纏うことは、しばらく無いのだろう。なぜなら特徴の一つであるドリル三本付きの腕部は、武器を持つのに適していない。どう考えても"邪魔"以外の言葉が見当たらないからだ。
そのゲストハウスの主の朝は早かった。
特に戦闘といった戦闘もなく帰還した彼女を待っていたのは、特に活躍もせずに与えられた休日という名の反省期間。達成感もなにもない。
目覚めて一番、簡易的に食事を済ませてすぐドンドルマ街内を走り込み、日課のトレーニングに勤しんで行く。
一通りノルマをこなして部屋に戻れば、火照った身体に付着した汗を流しつつ、最低限の身だしなみを整える。
その後はもう二度と出遅れないようにと、不完全燃焼で終わった砂漠での出来事を思い返しながら、躍起になって武器や鎧のメンテナンスに精を出すのだ。
普段の低い位置でテンションを維持する彼女の印象とは裏腹に、意固地になって次に備える少女がそこにいる。部屋の外では絶対に見せないその姿は、彼女としてもハインツやウィンブルグには正直見られたくないと自負していた。
何より、あのハインツは彼女を感情の起伏が乏しい人物と考えている節があるのだが、これは完全な誤解である。リィタ本人も甚だ遺憾というものであった。
表情にまで現れないだけであって、その鉄面皮の下にもしっかりと人の情が渦巻いている。それをハインツは分かっていない。いや、ウィンブルグやラッセルは分かっていながら、黙っている部分もあるのだろうか。
さらにリィタ自身の感情として、ハインツを基本善人だとは思ってはいるものの、文官として動く彼の言動に対しては多少の面倒くささを感じている始末である。
阿吽の呼吸、相棒などとは程遠い、互いに互いを理解できていないのだ。なぜ上は彼と彼女を組ませたのか、今思えば不思議にも程があるというもの。
様々な思いを逡巡させながら、後悔を胸に次回へ向けて爪を研ぐ。ハンターとして彼女が出来る最善がそこにはあった。
無言の思考を巡らせるうちに、時間はちょうど昼食の頃合い。リィタは武具のメンテナンスを切り上げると、インナー姿から簡単な屋外用の装いを着こなし、街の市場に出――
ようとしたときに、来訪者を知らせる鈴は鳴った。
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