第九紀・9812~9821年
/Transmigration …vol.01
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第九紀・9812年──
それが、その国、その世界で、彼女が生まれおちた──転生した年号だった。
・
家屋を揺らすほどの風雨のなか。
「やっと、会えたね──」
絶え間ない泣き声。
判然としない意識。
慌ただしい人の気配。
大声で交わされる異界の言葉。
──■■■■■■■■■■■! ■■■■!!
──■■! ■■■■■■■■■■■■■!
それらを理解の外において、産声をあげ続ける、赤ん坊の、
私。
「ああ、かわいい……とっても……アタシと、あいつの、あかちゃん……」
紫の花の指輪をはめた女性。
傷だらけの腕で私を抱き締め、愛情たっぷりに接してくれる、あたたかい優しさだけが、今の私に感じられることのすべてだった。
「アタシが、おかあさん、だよ…… 」
その女性は、異世界での私の母は、その一言を遺して、
死んだ。
・
第九紀・9821年──
秋──
この異世界に転生して、九年の月日が流れた。
母親が、お産直後に死亡した転生者──ここでの名はナハル・ニヴという少女──は、母が世話になっていたらしい教会の院長の保護下にある孤児院で、育てられた。
出産の頃から自分の意識を持ったままのナハルは、自分ではどうしようもない赤ん坊時代を過ごし、このような境遇に落とした神とやらを呪いながら、幼少期を過ごした。
そんな少女が、教会という神様にもっとも近い場所で生まれ、今日に至るまで無事に生きているというのは、盛大な皮肉とも言える……否。
(あるいはこんな私だから、あの神と名乗ったクソ馬鹿は、教会で私を見守っているという可能性が?)
真偽など確かめようのないことが、どちらにしろ彼女にとってはクソ以下な状況だ。
生まれてすぐに母親と死別する運命に置くことが、母親に虐待されていた私への配慮なのだとでも言うのだろうか?
反吐が出る思いだった。
「どうかしたの、ナハル? そんな怖い顔して? お祈り?」
ナハルと手伝いに向かうべく教会を探しまわっていた少女は、聖堂で祈りを上げるでもなく、険しい顔をしていた黒髪黒瞳の少女を怪訝そうに眺める。
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