ハーメルン
TOA~Another Story
レプリカの存在意義

 何かを得るためには、何かを差し出さなければならない。知識を得るなら、勉学に費やす時間を。金を得るためには、様々な手段で何かを手放す。

 なら、最大戦力を得るためには、何を差し出すのか。それは、おそらく血だろう。

 彼女もそれを望んでいるのだから。

 「ふふふ。言った通り殺しはしないわ。精々足掻きなさい。そしてどこまで出来るか見せて貰うわ。六神将に名を連ねるのだから、楽しみにしてるわよ」

 「頑張れよ。期待されてるみたいだぜ?」

 ネビリムからの熱烈な期待に、六神将の誰もが閉口する。上司であるヴァンも人間の領域を飛び越えて自分たちの手の届かない所にいたと思っていた。それを遥かに凌駕する化け物に期待されても、応えられる自信がない。それ以前に、殺されないかが気がかりだ。

 彼女は殺さないと言っているけれど、力加減を誤ってうっかり殺されそうである。

 「初めて六神将である事を怨んだよ……」

 「うぅ、怖いです」

 泣き言を言いながらもシンクは拳を握り、前に出る。アリエッタは純粋な後衛なので下がって、いつでも譜術を撃てるように構える。

 横に並んできたシンクにルークは、そっと耳打ちした。

 「作戦としては、リグレットやアリエッタに譜術をバンバン撃ってもらう。俺たちは囮だ。なるだけ相手の攻撃を食らわないようにしろよ。一発がくそ重たいぞ」

 「……嫌になるね。接近戦がまるで通用しないってのは」

 「全くって訳じゃないけど、食らったら死ねるからな。出来れば安全に行きたい」

 中空を漂う無数の武器を従えたネビリムは、ルーク達の話し合いが終わると、背中の羽らしき物をふわりと広げる。

 それは、戦いの合図だった。ネビリムは高速とも言える速さで譜を紡ぎ、術として完成させる。

 「サンダーブレード!」

 「速いッ!?」

 彼我の距離を詰める間もなく放たれる風の上級譜術。第三音素に特化しているシンクでもこの短時間で高火力のサンダーブレードの構築は不可能。故にその異常性に仮面の下で瞠目する。

 辺りに紫電をまき散らす雷の剣を避け、ルークとシンクは己が磨いてきた技を放つ。

 シンクの両手から繰り出される掌底。それは重たい衝撃破を相手に叩き付け本来なら吹き飛ばす事も可能だが、化け物であるネビリムは、それを受けてもよろめくのみ。

 あまりの力の差に絶望すら感じられない。何もかもが可笑しくて笑い出してしまいそうになる。

 目の前の化け物が大勢を立て直す寸前、ルークの剣技が舞う。

 「雷神剣!」

 「くっ!」

 瞬迅剣にも似た動作で突き出された剣から迸ったのは、先ほどネビリムが放ったサンダーブレードよりも小さい電撃。小さながら第三音素のFOFを作り出し、ルークはアルバート流の奥義を放つ。

 「翔破裂光閃!」

 繰り出される連撃。そして強烈な光の本流にネビリムは大きく打ち上げられる。

 シンクは、目の前で起こった事に、心が震えた。

 自分の打撃など、苦にもしなかった化け物が吹き飛ばされた。本当なら悔しい筈なのに、ルークがやってのけたことに、もしかすればこの化け物に勝てるのではないかと微かな希望が見える。ルークは囮でいいと言った。だが、勝利をより確実にするためには、どうすべきか。シンクはそれを考える。

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