ハーメルン
イラの魔獣Beauté et bête magique
3/魔術の王国・ヴィルヌーヴ(前編)
俺は昔から好きな人が居た。
その人はかなり年上の教育実習のお姉さんで、大人になったら釣り合うような男になろうと色々頑張ったのを覚えてる。
でも出会って数年としないうちに、その人が誰かと結婚する事が決まった。
その人はとても幸せそうで……
悲しいけど、それを押し付けるのは明らかに間違いだと自分では解ってて……
だから俺は、その背中を追うことをすっぱり諦めた。
◇
馬車が王女様お忍びの為の薄暗い小路を抜けて、窓から急に光が差し込んだ。
眩しさに閉じた目をゆっくり開けると、上空に広がる異世界の青い空と眼下に広がる赤い街が素晴らしい展望を拡げていた。
空にうっすらと見えるあの巨大なリングも、より一層感動を拡げてくれる。
「っ……ふわぁ……!」
馬車の後ろにそびえ立つ王宮を中央の一区画として、放射状に拡がる10の大通りと、その隙間を縫うように乱立する赤煉瓦の建物たち。
その大通りの一つ、かなり遠くに見覚えのある砦が見えるが……そうかあんなとこから走ってきてたのか。
そりゃあ疲れるよな、と、馬車に揺られながら向かいに座るスザンヌを見やる。
「……王女陛下に何か御用か?」
「滅相もございません」
王女様(スザンヌ)の執事なのだろうか、それとも部下のお偉いさんか
スザンヌの隣に座る豪奢な衣装のじい様が腰のレイピア──例によって柄が鍔の辺りから機械仕掛け──に手をあてながら滅茶苦茶睨んでくる。
金髪の起こした爆発もそうだが、どうもこの世界の連中は機械を通して魔法じみた攻撃をぶっ放せるらしい。
そこだけ技術どうなってんねんと言いたくなるが、最後に食らった身体が重くなる魔法はまじでもう食らいたくない。
「ウォルター、意地悪するんじゃないの」
「……ちっ」
スザンヌの一言で舌打ちしながら手を引くが、目はまだこちらをまだ睨んでくるウォルターじい様。
昨日の風呂の件は早くも王宮内で噂になってたらしく、王宮内で目を覚ました俺は早速猛獣(性的な意味で)扱いのまま馬車に詰められてきたのだ。
出発前にスザンヌが入ってきたときは侍女達が止めに入って来ていたが、結局説得されてしまっていた。
馬車の中からじゃ聞こえなかったが、侍女達は顔を真っ赤にしていた。 王女には誰も敵わないらしい。
んで一緒に入ってきたのがこのじい様だ。
そりゃ警戒もするわな。
そう思っていたところで、スザンヌが口を開いた。
「イラ、私はあなたをこの国の為に働かせようと思うの。
あなたの身体はそれに足る能力を持っている、そして知性もあるからね?」
「はぁ……」
まぁ、番犬っつってたからな。
しかし、街を見下ろす限りどっかの国と戦争をしているとかそういう様子は微塵も感じられなかった。
子供たちが市中を走り回り、商店の立ち並ぶ街道は人で賑わっている。
和風な意匠のドレスを着飾ったエルフっぽい耳の長い人や、ビキニアーマーの腰に機械剣を下げた獸耳の人とか、多種多様な人種が溢れている。
戦争なんてしてたらこうはいかないだろうな。
おまけに割りと女性の美人さんが多いこと流石異世界うひょひょ……
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