比較
――起きろ、起きないか
声がする
――はやく起きてくれないか。ボクははやく向こうに行きたいんだ
顔を叩く衝撃と、声が響く
「ん、むぅ……?」
眼を開けると、そこは青い天井
身を起こす。横たえた身体はベッドに投げ出され、タオルをかけられている
「ここは……」
――確か、自分は特異点から生還し、それから霊基を修復するために眠っていた……ということになるのか
……ファーストオーダーは無事完遂したらしいな。自分がここにいるとなると
安堵する。力みが加わった身体をゆっくりとリラックスさせ、息を吐く
無事に、マスター達をカルデアに帰還させる事が叶ったようで何よりだ
……人理焼却
⬛⬛⬛⬛⬛により引き起こされた、人類の⬛⬛⬛⬛⬛⬛事業。何もが無し得なかった、⬛の克服
――聞き及ぶのと、実際に体験するのは当たり前だが衝撃が違う
もう、人類は滅びたなどと……与太話にしては最悪の戯れ事だ
恐らく、いや確実にマスター達は、困難に立ち向かう道を選ぶだろう
道がそれしか無い以上、強制と言っても過言では無いが、やってもらわねば人類は終わるのだ
「――大人とは、肝心なところでは無力よな」
呟く。自分の人生のみで手一杯なのが大人と言うつまらん生き物だと器は言う
――否定はしない。常識が狭まれば狭まるほど可能性は閉じていくものだ
夢見た明日を、輝く未来を、現実という錆で汚していくのが人の生だ
……自分は、その自分すら何も無かったわけだが……
(おい、いつまでボクを放っておくんだ)
!?
頭に、いや心に声が響く。
誰だ……!?何者だ!?
(落ち着いて前を見てほしいな。可愛らしいボクがいるだろう?)
言われるがまま。前をみやる
するとそこには、白い毛皮をふんだんに蓄え、角のようなものを生やした見目麗しい獣が一つ、ちょこんと座っていた
(やぁ、無銘の英雄王。キミの奮闘は見ていたよ)
――!?
(そう身構えないで。誰にも言うつもりはないし、ボクはキミの邪魔をするつもりはない)
声は静かに、確かに心に沈みこむような重さを持つ
(先に言っておくと、ボクはオマエは大嫌いだ)
――オマエ?
(そう、金ぴかで偉そうで傲慢な千里眼持ち。とくに千里眼というのが良くない。それだけでボクは変じてしまいそうになったりする)
(本当なら。一緒になんていたくはないけれど……キミは別だ)
キミ?
(キミだよ。無銘の魂。ギルガメッシュに転生した無銘の魂のことだ)
――まさか
解っているのか、見抜いたのか……!?自分の正体を!?
英雄王に宿る、自分の在り方を、この綺麗な獣が?
(ボクはオマエは大嫌いだけど、同時にキミには興味を抱いたんだ。混乱するかい?慣れてくれ)
(キミは、一つの奇跡を選んだ。そして、成し遂げた)
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