ハーメルン
チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない
あいいぅうあいあ いあいおああ
*
「……どういうことだ? 美月には……見えないのか?」
「いえ、その……眼鏡を掛ければ、見えるのですが……外すと、消えてしまって」
美月の眼は霊子放射光過敏症だ。プシオンが放つ光を過剰に捉えてしまう現代病の一つであり、幹比古に言わせれば美月の眼は「水晶眼」という、機能的にとても優れた物であるらしい。
彼女のつける眼鏡はオーラ・カット・コーティング・レンズといって、その放射光をカットできるアイテムになる。
そんな彼女の眼が、眼鏡を付けている時は見えて、眼鏡を付けていない時は見えないと言うのはどういう事か。
「あの女性は霊子を持っていないということか? いや、それならば眼鏡を付けていなくとも見えるはず……」
「皆さんが見ている場所は、私にはレンズを通した世界のように……歪んで見えます。そこに何かがある、ということはわかるんですけど……」
「……」
その現象は、追上青が頻繁に使用する視線外しと似ていた。九校戦の後、追上の戦闘映像を見た限りで、「恐らく視線を外しているだろう箇所」で似たような歪みが起きていたのだ。
光波振動系の魔法、と思われていたようだが、それがBS魔法の……それも精神干渉系魔法だとするならば、心霊現象の次元にある霊子に作用できてもおかしくはない。未だ仮説の段階ではあるが、霊子は「情動を形作っている粒子」とされているのだから、「見たくない」という情動を操作しているのであれば、納得も出来よう。
であるならば、追上葵のしている事とは何か。
それは霊子の視線外し。美月が見てしまう視界、つまり美月の視線を外しているという事か?
「だが、それをする意味は……?」
「達也さん?」
達也は、美月を”視て”みた。
イデアにアクセスし、美月を構成するエイドスを視る。
ぼやける事無く、視る事が出来た。
追上葵を視る。
ぼやける。追上葵がいる場所の奥の景色が見えているような、そんな視界。
「……美月。もう一度眼鏡を外してみてくれないか?」
「え? は、はい」
そこで達也は、精霊の眼の使用を中止する。
相変わらず注視は出来ないが――、
「え……あ、視えました……。……あれ?」
達也が精霊の眼の使用を中止した途端、美月の眼が葵を捉えたのだ。
これは恐らく、「精霊の眼の視線」などという達也ですら把握していないソレを逸らされた結果、巻き添えで美月の眼まで彼女を捉えられなくなっていた、という事だろう。
美月の証言を省みるのならば、逸らされたというよりは操作され、ステルスが如く背後の風景を投射されていた、と見るべきだろうか。
「どうした、美月? どこへ行く?」
「いえ、その……」
眼鏡を外したままフラフラと……葵の方へ歩いて行く美月。
口は半開きで、目はパチパチと瞬きを繰り返して。
流石にその異常性に気付いたのか、周りの人間達も美月に注目する。
そして美月は、葵の前に立つと。
「……あの、間違っていたら……ごめんなさい。けど……追上くん、ですよね? あの、私達と同じクラスの……」
「え?
あ、うん」
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