ハーメルン
チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない
あいおあ ああいおあえおいうえあ

*



『全校生徒の皆さん!』

「うおっ!?」

 授業が終わった、放課後。
 突然の大音量がスピーカーから放たれた。
 ハウってるハウってる。

『――失礼しました、全校生徒の皆さん』

 どうやら音声調整ミスのようだ。あるある。
 
『僕達は学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

 じゃあなんで全校生徒に言ったんだろう。
 生徒会と部活連に言えばいいのに。
 とは思ったものの、クラスメイトのみんなは何やら不安がって一度席を立った人も戻ってきている。この後その交渉とやらが成功するにせよ失敗するにせよ、その旨を伝えるためには生徒が多くいた方がいいってことかな? わからんが。

 とはいえ僕には特に関係の無い話だ。
 残念ながら僕への差別はどうやったって撤廃されないからね。人と違う、ってだけで差別ってしちゃうもんだよ。区別じゃない分マシかな。区別だと、対等な立場なのに出来ないっていうもうどうしようもないレッテルが貼られちゃうからね。
 
 そんな感じで席を立つと、一瞬で視線が集まった。

「あ?」

 いつも通りの単音。
 サッと目を逸らすみんな。この便利ワード、是非とも流行語大賞にしてほしいよね。
 じゃあそういうことで、とでもいうかのように手を振って教室を出ようとしたその時、肩をガシッと掴まれた。痛い痛い握力強い強い。

「――何処へ行く気だ、追上」

「家」

 簡潔に答えて、振り払う。
 僕もそれなりにガタイがいいから、振りきれない事はないのだ。それにしたって強いが。

 達也君が追いかけてくることは無かった。



*



 翌日、僕は普通に登校した。
 当たり前のように僕の席付近には誰も近づかず、誰も話しかけてこないストレスフリーの状態でみんなの会話を聞く。
 クラスメイトの話(盗み聞き)によれば、明日は講堂で公開討論会なるものを開くらしい。昨日の有志同盟とやらと生徒会・部活連の交渉の結果(?)だとか。へぇ、やるじゃないかと思いつつ、もしやそれは強制参加なのかとうんざりもしていた。
 僕にはクッキーを大量生産し続けるという崇高な使命があるというのに、だから昨日もこの一週間もいち早く家に帰っているというのに、僕からその時間を奪うのかい!?
 母音ーッン語すら使わなくていいクリックゲーは僕の心の癒しなんだよ……ッ!

「君、少しいいかな」

「あン?」

 そんな身勝手な敵意を有志同盟とやらに向けていたら、後ろから声を掛けられた。
 振り向いてみれば、優男。あ、いや、チャラ男と優男を足して二で割った挙句四乗したような、そんな男。青と赤で縁取られた白いリストバンドの様な物を付けている。なにそれ、フランス国旗?
 
「そう凄まないでくれ。僕は君に良い話を持ってきたんだよ」

「……」

 うわっ、怪C!!
 というか胡散臭っ。良い話を持ちかけられて良い話だった試しがある人ってどれくらいいるんだろう。
 胡散(うさん)(しゅう)がプンプンするぜッ!

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