迷子のヴァンパイア娘
「え?……NPC……?」
黄金の、太陽を模したかのような装備を身に纏い、爆撃機並みの攻撃力の弓を持ったバードマンの青年。
この世界ではペロロンチーノというユーザーネームを持つ彼は今、盛大に困惑していた。
前置きとして、そもそも何故彼がここに居るのかという事から話そう。
彼はユグドラシル、というゲームのプレイヤーであり、同時に「アインズ・ウール・ゴウン」という41人で構成された、少数ながらかなりの戦力を誇るDQNギルド、そのメンバーの一員であった。
このグレンデラ沼地という、毒の沼に覆われた暗き森の中心部にある遺跡……ナザリック地下墳墓……今では攻略後に改造を施され、六つだったエリアは九つに増築され、名前もナザリック地下大墳墓と変更、各階層の内容も制圧前とは比べ物にならないという、彼らアインズ・ウール・ゴウンの拠点。
彼はバードマンの特殊スキルでもある外敵の探知に長けたスキルを活かし、表層で拠点を守護する存在であった。
そして今日、そんな彼の監視網に引っかかったのは、一人のヴァンパイアの少女がフラフラとこのグレンデラ沼地に訪れる姿。
つい前日、傭兵NPCや使い魔、召喚MOBといった者を含めると、約200名にも登る大人数のプレイヤーがナザリックへと進行し、それらとの戦闘があったばかりであった。
結果として相手はほぼ全滅させ、アインズ・ウール・ゴウンは勝利を収めたものの、受けたダメージは皆無という訳にもいかず……一言で言えば、現状アインズ・ウール・ゴウンは”ピリピリ”していたのである。
なので彼、ペロロンチーノは彼女の姿を見た瞬間、すわっ敵襲か?と思ったが、どうもそんな様子でもない。
仲間に報告してみるものの、探知妨害等の阻害魔法一つかけていないという。
見ただけで強さが分かるスキルを所持する仲間にも聞いてみたが、およそ彼らの敵になるような存在ではなく、むしろ雑魚中の雑魚。
偽装しているにしても、あまりに弱すぎるという。
そうこう話しているうちにも彼女は、昼夜問わず暗闇に包まれる為、グレンデラ沼地では必須となるハズの暗視系アイテムまたはスキルを持っていないのか、毒の沼に足を突っ込んで慌て、ちょっと迂回すればいい話なのだが、周りが見えないのか、そこで蹲って途方にくれてしまった。
これは見ていたペロロンチーノしか気付かなかったが、よく見れば細かく震えているように見える。
えっ、ちょっとまってアレ泣いてんじゃない?
アインズ・ウール・ゴウン各員が話し合って出た仮説に、「彼女はどこかタチの悪いユーザーに騙されてここに連れてこられてしまった初心者ユーザーなのでは無いか?」というものが挙げられた。
というのも、以前にも似たようなことがあったのだ。
我らがアインズ・ウール・ゴウンのギルド長は、魔王ロールがプレイヤー間でも有名であったので、初心者のユーザーに、「プレイヤーのように振舞っているが、中身は運営。あれがこのゲームのラスボスで、倒すと……」というような偽情報が流され、それを鵜呑みにしたレベル100にもなっていない初心者がたったの5人でナザリックに挑むという事件があった。
そもそもHPとかMPの値を見れば分かるのではと思うかもしれないが、このゲームでは情報戦を有利に進めるために、自らのステータスを偽って表示する、なんていうスキルも存在するので、結果として、初心者相手にガチの魔法をぶっ放して蹂躙する、いや、してしまうという結果になった。
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