chapter11.ハンナ・オールウェイ
それは、2017年10月31日のことだった。あたし、ハンナ・オールウェイの運命が変わったのは。
いつものように鞄の縫製工場で朝から1日中働いて、所在不明の反逆者を2分間罵って、それで何にもいいこともなく今日が終わる……はずだった。
相変わらず物がほとんどないパン屋から、黒パンの塊を手に入れる。ついでにとなりの食料品店でチーズの小さな塊を買い、いつもの帰り道を帰っていく。
[Big Brother is watching you.]
至る所にそんな言葉と黒髪黒髭の男の顔を描いたポスターが貼られた荒れ果てた道を小走りで帰る。いつ蒸気船が飛んでくるかわからないからだ。さっきもこの辺りで爆撃があったそうだし。さっさと帰んないと。
その時だった。
道の向こう側に瓦礫の山ができている。大方、爆撃の跡だろう。その中から何か聴こえるのだ。
「助けて…」
物凄く小さく掠れているが、これは人の声だ。ということは誰か埋もれているのか!
急いで瓦礫を取り払う。すると手が出てきた。多少怪我はしているが、そこまで酷くはない。
「ちょっと待って!今出してあげるから!」
なんとか取り除き終えるとそこには……
黒い髪をした女の子が横たわっていた。
女の子を抱えて、自分のアパートに駆け込む。女の子はどうも衰弱しているようだし、手当てをしなくてはまずい。
家に残っていた包帯でなんとか傷口の止血をした。それから自分のベッドの上に寝かせた。
「それにしても見かけない顔だなぁ。ここの人間とは顔つきも違うし…。ひょっとして外国人かな?」
顔の作りからしてロンドンの人間とは違う。じゃあユーラシア人かイースタシア人になるけど…。一度だけ連行されるユーラシア兵の捕虜の顔を見たことがあるが、それとも少し違う。それならイースタシアから来たことになるが、それでもイースタシアからこの国まではかなり離れている。一体、この子は一体どこからきたのか?
それに血色もいいし、身につけている服も私が着ているものより上等だ。ますます何処からきたのか気になる。それにこのペンダント、これも何か気になる。
あたしがそんなことを考えているとベッドの上の女の子が目をゆっくり開け始めていた。気がついたみたいだ。
気がつくと私は何処かのベッドの上で横たわっていた。そして目を開けるとそこには私より少し年上っぽい女の人がいた。この人が助けてくれたらしい。
「Are you all right?」
英語で聞いてきた。どうやらイギリスで間違いなさそうだ。
「Yes」
とりあえずそう答える。少しだけ手が痛むけど他は大丈夫みたいだ。
「Where do you come from, little girl ?」
「Japan」
日本から来たと答えたら、怪訝な顔をされた。日本人が珍しい訳がないと思うけど…。
お姉さんの反応を見ると珍しいんじゃなくて、どうやら日本を知らないらしい。というか聞いたことがないようだ。まさかとは思うがイギリスじゃないのかもしれない。
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