ハーメルン
キノの旅 ―the Infinite World―
第8話 廃墟の話 ―Lost Home―

黄河帝国にある森の中を、バイクが走って行く。
バイクにまたがった人物は、何も言わずにただバイクを運転する。
いつもは沈黙を退屈に感じ話しかけるバイクも、今回は何も言わずに黙っていた。

「…………ヘルメス」
『なんだい、キノ』

あまりにも長い沈黙の末、ようやく口を開いた自分のマスターに、彼女のエンブリオは優しく答えた。

「だいぶ進んだし、この辺りまで行けば町があるって村の人たちが言ってたよね。今日はそこで休もう」

ここに来る前に立ち寄った村での出来事で、深く傷ついたキノだったが……少しずつ立ち直ってきたらしい。

『賛成。できればセーブポイントがあるとなおよし』
「どうして?」
『そりゃあ整備して欲しいからだよ。もう少しで壊れるかと思った!』
「あはは、ごめんごめん。そうだね……なかったら【ジョブクリスタル】を……あ、いや、また戻すなら二つ使っちゃうね、やめとこ」
『そんな!』

幸い、セーブポイントはあった。





町に着くと一旦ログアウトしたため、次にログインしたときにはすっかり気持ちをリフレッシュできていたキノ。
町を歩いて回る中、大きな建物の前で足を止める。

「ここは……」

そばの看板を読んでみると、どうやら博物館らしい。
黄河に来る前にも様々な国を回っているが、そういえばデンドロで博物館を初めて見つけたなと興味がわく。
もしかしたらキノが見落とした国もあったかもしれない。しかしそうだとしても、グランバロアと天地にはないだろうな、なんて思っていた。

入ってみると、受付をしていたティアンの女性が軽い説明をしてくれる。
ここでは黄河の歴史、そして町自体の歴史についての展示が主だという。
世界を旅して回る上で、その国の歴史を知ることができるのはとてもいいことだ、とキノは喜んで展示を見て回る。

別の国では図書館に入ったり、また昔から語り継がれてきた話を聞いたりしてこの世界の歴史に触れてきたキノだが、展示を見るのは新鮮だと感じた。

「これは?」
「こちらはこの街の……前身となった都市の復元模型です」

ガイドが話すことには……
今キノがいるこの町は、比較的新しいものであり、かつては別のところに住んでいた人々が集まってできた町なのだそうだ。
では彼らが以前住んでいた場所はどうしたのかというと……戦乱に巻き込まれ、壊滅的被害を受けたのだという。

その戦乱とは……次期皇帝を争う戦乱。
この内乱はただただ巡り合わせが悪かった結果起こったものだ。
皇帝が亡くなった際、後継について意見できる【龍帝】はその数年前に死んだばかりであった。
しかし、弟が継ぐと思われていたところに、側室が皇帝の遺児を孕んでいるとわかったことで事態は混迷へと叩き落とされた。

黄河は二分され争い続け……最後には遺児が政治には関われぬ掟である【龍帝】として生まれたことで、あっけなく戦乱は終わりを告げた。

あと少し、何かの時期さえずれていればおきる意味もなかった戦いは、ただ傷だけを黄河に残した。
その影響は各地に残った。例えば、土龍人は「龍」の名を返上し、荒れ果てた故郷から今のアルター王国へと去った。

そして。
キノがいる町もまた、戦乱の結果荒れ果てた故郷を去った人々が集まってできた町なのだ。

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