ハーメルン
転生者の魔都『海鳴市』
18/神の悪戯




「――おやおや、面白い事態になっているね」

 壊れかけの玩具に起こった新たな劇的な変化に、彼女は興味深く思った。

 ――異世界の導き、七人七騎の聖杯戦争。この玩具が『万能の願望機』を求めるなど、かつての誇り高き『彼女』では在り得ない事態だった。

 その理由は何とも愛らしい。永遠に囚われた伴侶を消滅させて解放する為に、泡沫の奇跡を願う。
 実に彼女好みの破綻した願望だった。愛する者の為に愛する者の消去を願う。
 たかが杯如きに邪神が齎した終末を覆す事は不可能だ。それ故に彼の完全消滅を願う――この芳しき矛盾が『愛』でなくて何だという?

「でも、今の君には鬼械神が無い。それではもう一人のクロウ君が可哀想だねぇ」

 あの世界には懐かしの玩具もいる。あれが召喚したのは『ナコト写本』であり、このままの彼女ではアンフェアだった。
 鬼械神を招喚出来ずに鬼械神に叩き潰されるなど、興醒めも良い処。これでは読者を楽しませる事など出来ない。
 一流のエンターテイメントとして場を盛り上げる為には、一工夫必要である。

「用意してあげたよ。君の為に、僕の一部を貸し出してあげよう。遠慮する事は無い。この記憶は検閲しておいてあげるよ」

 準備は整った。後は手を下さずとも『彼女』自身が穢れ無き世界を邪悪に染め上げる。
 大十字九郎のいない君が何処まで足掻けるのか、見ものである。

「さぁ、新たな世界に混沌を齎すが良い。それが君に相応しい君の役目だ、アル・アジフ――」


 18/神の悪戯


「……す、凄い……!」

 ――天に二条の巨大な流星が駆ける。
 白銀の流星と、真紅の流星。互いに滅技を繰り出しながら二重螺旋を紡いで天に昇っていく。

「白い方がクロウ兄ちゃんのかな……!?」

 紅い鬼械神が黄金の十字架の剣を振るい、銀の鬼械神が異形の大剣を振るい、十撃百撃千撃と、不可視の速度で打ち合っていく。
 一際強烈に衝突し、二つの鬼械神は吹き飛ばされて距離が開く。
 互いに装甲に夥しい損傷があったが、二機とも光が生じたと同時に復元し――紅い鬼械神は弓に幾十の矢を装填し、銀の鬼械神はその背に『水晶を削って作ったような鋭く荒削りな翼』を展開し、ほぼ同時に撃ち放つ。

 ――彼等の戦場が地上ならば再起不能になりかねない破壊の権化が天で衝突する。

「ひゃあっ!?」

 地上に居る八神はやてまでもその余波に煽られ、危うく車椅子から転落する事態になる処だった。
 生身の勝負では圧倒されていたが、鬼械神の勝負ではまさに互角だった。それは贔屓目で見ても、そう思えるほど実力が伯仲していた。

「クロウ兄ちゃん、アルちゃん、シスター……」

 もしも、この勝負に明確な決着を付ける要素が有り得るとしたら、それは人の理ではなく、天の理に違いない――。




「……行ける!」

 シスターの魔術を再構築して繰り出した『水翼』が『リベル・レギス』の弓に打ち勝ち、かの鬼械神に無視出来ない損傷を与えた。
 これで相手が『マスターテリオン』ならば瞬時に復元機能が作動し、永遠に死闘を継続させられるだろうが、有限の魔力しかない人間の魔導師ならば魔力不足による息切れが当然生じる。

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