02/残り六人の転校生
燃え盛る噴煙の渦の中、私は夜空に輝く満月を眺める。
幾星霜の夜を越えて尚も不変の月は美しく、今際に見納めるには至高の景色だった。
――この世界は見るに耐えない。
醜いのではない、自分にとって世界は余りにも脆すぎた。
遠くから啜り声が聞こえる。泣き喚いてとうに枯れ果てた子供の声が。
相も変わらず泣き虫の小娘が、どうしようもなく、泣いている。
けれども、振り向かずに炎の中を突き進む。今世の別れは既に済ませた。今後、どのような道を歩むかはあれ次第であり、今から逝く自分には関係無い事だ。
――薄々予感していた。
この死に様に至る事は前世から決定していたものだ。
一度ならず、二度も同じ死に方をするのは御免だったが、今はそれでも良いかと思える。
――何せ、その御蔭か、あの『彼女』を自力で引き当てたんだ。
我が業の深さは他とは比べ物にならぬほど格別というものだ。それだけは誇って良い。
揺らめく陽炎に焦がされ、薄れる意識の中で『彼女』の姿を幻視する。
今でも一片も色褪せずに思い浮かべられる。恐らくは地獄の底に落ちても鮮明に思い返せるだろう。
――その瞳を覚えている。その髪も顔も輪郭も、その身に纏う穢れ無き神聖さも、この胸の奥に刻み込んでいる。
君と共に歩んだ『一週間』こそが我が人生最高の瞬間であり、君のいない人生は一寸の光無き暗闇だった。
まるで夢のような『一週間』だった。君と一緒なら何でも出来た。不可能を可能に落とし、理不尽や不条理を二人の力を持って何度も覆せた。
あの『一週間』を君と共に戦い抜き、『奇跡』という名の栄光を掴み取る事が出来た。
――そして君は消え去った。夢とはいつか覚める幻だと、それが現実だと言うように。
彼女の姿を一目見た瞬間、私の心は永遠に捕らわれた。
一目惚れなど都市伝説の類だと思っていたが、自分で体験すると中々笑い飛ばせない。
生涯で唯一度のみ、それは燃え盛る灼熱の炎のような『恋』だった――。
02/残り六人の転校生
「ハァ、ハァッ、畜生、一体全体どうなってやがる……!」
息切れしながら誰もいない廊下を走り、階段を登り切って屋上に出る。
人が居ない事を瞬時に確認する。当然ながら居る筈は無い。今の時間帯は一時限目の授業中であり、体調不良と偽って抜け出して来た自分以外、居る筈が無い。
即座にアドレスを漁り、昨日登録したばかりの番号をコールする。二回鳴り、三回目でその相手は出て来た。
『――秋瀬直也か』
「……転校生四名が行方不明になっている。それについて詳しく聞きたい」
そう、今日、学校に来てみれば、四人の転校生が行方不明であり、見かけたら連絡するようにという有り難い朝礼が伝えられた。
これが転校生でなければ「思春期特有の突発的な家出か?」で済ました処だが、自分と同じ精神年齢が著しく狂っている転生者となれば話は変わるものだ。
そんな此方の焦りとは裏腹に、電話の主の調子はいつも通り、平常運転といった無感情っぷりだった。
『ん? ああ、そうか。君は余所者だったな。その辺の感覚は俺達と異なるのか――この街では『行方不明=死亡扱い』なんだよ。死体は探しても絶対見つからないという意味の』
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