ハーメルン
変わらず、俺は速水奏にからかわれる。
♯3 今はまだ……






 屋上は基本的に解放されていないが、去年の夏ごろに三年の先輩が勝手に屋上に侵入しようとした時、ドアの鍵が壊れている事が解った。その事を知ってからは、俺を含む少数の人間が利用するようになった。今のところまだ見つかっていないが、誰か一人でも見つかったら、多分屋上の鍵は変えられるので、細心の注意を払って侵入している。見つかるよりも先に新しい鍵に変えられるかと思っていたが、一年も経っているのに変えられる様子は全く無い。
 その屋上で、大の字になって寝転がる。
 青空が眩しい。太陽は相変わらず遠い。雲は自由に飛び回っている。6月という事もあり、なかなかのポカポカ陽気だ。
 スマートフォンを取り出して、小さな音で音楽を流す。
 時間的にはもう午後の授業が始まっているのだが、戻りづらい。あれだけ人前で何かやっといて今更だけど、やっぱり俺だって男だ。それなりにプライドもあるし、近づいてきたら勘違いする事だってある。速水は美人だ。多分学校で一番美人だ。そんな奴がなんで俺に構ってくるのか解らない。
 理由も目的も解らない。
 俺自身は友達だと思ってるし、これからも関係が続くんだったら友達でいたいと思っている。
 別に特別な存在になりたいわけじゃない。
 なのに、どうしてだろう。
 胸の奥底にあるこの感情は。


 いつからだろう。


 いつから俺は速水と関わりを持つようになったんだろうーーー?





ーーーーー




 変わらず、俺は速水奏にからかわれる。




ーーーーー





 中学一年の時、俺は初めて速水と出逢った。まぁ、出逢ったって言っても一方的に俺が知ってただけだ。
 入学式の時、男子達が視線を送っていた先にいたのが速水奏だった。その時から全生徒の注目の的になっていた速水は、当時男子と全く関わりを持とうとしなかった。
 一年の時は速水とは別のクラスだったが、遠くで見てた限りではあいつの周りには女子しかいなかった。
 近づく男子もいたらしいが、速水に相手にされず、全員が撃退されたらしい。
 実を言うと俺もその一人だった。ただの罰ゲームだった。浮ついた気持ちなんて一つもなかった。野球でヒット一本打たれて、その罰ゲームで話しかけた。全く相手にされなかったげどな。
 なんで俺はあの時あの賭けに乗ってしまったのか。
 理由なんて分からない。
 他は相手にされないけど俺なら相手にされる、なんて事も当然思ってもいなかったし、そんな自信も無かった。
 ただ、速水のその後ろ姿は綺麗だった。一度その背中を見ただけでその姿が俺の瞼に未だに焼きついている。
 惚れたわけじゃない。憧れたわけでもない。説明出来ないなにかが俺の中にあって、その衝動に素直になって、その後も何度か話しかけた。全く相手にされなかったけど。
 結局何が原因だったのかはわからない。
 話しかけた事が問題なら、他の連中にはどうしていかないのか。
 そんな謎だけがずっと残っている。

 いつからだろう。
 いつから速水と話すようになったんだろう。
 どうして俺はそんな些細な事も思い出せないんだろう。


 わからないまま、時間だけが流れていく。

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