ハーメルン
シュバルツバースでシヴィライゼーション
シュバルツバースで合流と疑惑

 ヒューヒューとかすかに空気の漏れ出る音が、"怪物"の口から聞こえてきた。
 醜悪な手足と白髪の人面を持つ巨大な蛇の"悪魔"だ。カンバリ様に聞くところでは、堕天使"ベテルギウス"というらしい。
 その堕天使が金色の羽根を持った巨鳥との壮絶な格闘の末に、今や巨鳥の鋭利な鉤爪と嘴で押さえつけられてしまっていた。
 喉元に食らいつく巨鳥の嘴が、"ベテルギウス"の呼吸を容赦なく阻害する。
 巨鳥の拘束から逃れようと、"ベテルギウス"も手足をばたつかせているが、一矢報いるまでには至らないようだ。
 巨鳥の嘴が"ベテルギウス"の喉元から離れた。呼吸をしようと精一杯に口を開ける"ベテルギウス"の顔を、巨鳥が金色の羽根で強かに打ちつける。大地に押さえつけられた"ベテルギウス"の首を、今度は鉤爪が押さえ込んだ。
 再び、阻害される呼吸。窮地に引き戻された堕天使に対し、自由になった巨鳥の嘴がさらなる追い討ちをかけた。
 まず、両の眼が突き潰される。悲鳴をあげることもできず、"ベテルギウス"の眼孔から青い血飛沫が吹き出した。
 次に手足が食いちぎられる。道化を思わせる黄斑が浮かぶ体皮に新たな血色の斑点が飛び散っていった。

「うわあ」
 と呻くより他に反応のしようがない、まさに大自然の縮図である。実家の近所ではたまに上空より飛来した猛禽類がカラスや鳩を標的にしてあれと同じことをやっていた。
2体の"悪魔"が暴れ回ったことにより滅茶苦茶になってしまった"箱庭"の惨状や、他のことも含めて、どうしてこうなったと嘆息せざるを得ない。

「何だ、この空間は……。地上――? いや、地上に良く似た空間なのか……? 何故、シュバルツバースの中に?」
 後に続いて"箱庭"へと飛び込んできたタダノ君を含む"レッドスプライト"クルーたちが呆然とする中、小生は手早く"箱庭"の現状を確認していった。
 運び込んでいた資材が、ぐちゃぐちゃに散乱してしまっている。さらにあちらこちらに"タンガタ・マヌ"さんや"スダマ"であったはずの残骸が転がっていた。その数、10や20ではきかないかも知れない。
 彼らもこの場所を守るために戦ってくれたのだろう。
 小生は先だって、彼らに畑仕事を手伝ってくれた礼をしたいと約束していたというのに……。何も返せず、彼らは死んでしまった。
 虚空を見つめる仲魔たちの亡骸に、申し訳なさばかりが先に立つ。
「トラちゃんさん、彼らは……」
 もしやと思いトラちゃんさんに呼びかけるが、彼女は悲しげに頭を振った。
「……蘇生は無理。時間が経ちすぎてるもの。でも、こいつらは後悔してないわよ。それだけは分かるのよ」
 そう言って、彼女は自身の細い手を横に振るう。すると無数の亡骸がほのかな光を発し、白い砂へと変わっていった。

「これは」
「死によるケガレを"浄化"してあげただけ。後で、きちんとお墓作ってあげて」
「それは、はい。勿論……」
 墓はトウモロコシ畑の傍が良いだろう。何せ、あれは彼らが手ずから耕してくれた土地なのだ。しかし、肝心のトウモロコシ畑の現状は全てが薙ぎ倒され、あるいは踏みつぶされており、もう全滅と言って差し支えないものであった。

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