シュバルツバースで収穫と建築
不意の来訪者にお帰り願ってしばし経った後、
「さあ、アンタが何でヤマダの中に棲みついていたか、きりきり白状してもらおうじゃないっ! 一体何を企んでいるの!!」
"箱庭"の居住区画にはトラちゃんさんに詰め寄られている、頭に花を模したアクセサリーを乗せた半透明の少女の姿が加わっていた。
彼女は一見しただけでは人外と全く思えぬ見てくれをしていて、袖の広い赤パーカーの上からでも容易に分かる女性らしいラインが、スレンダーofスレンダーなトラちゃんさんとは対照的な存在感を醸し出しいる。
――と、改めてトラちゃんさんの大平原ぶりに気づかされたところで、小生の腹に衝撃がやってきた。我らが女神様に強く踏みつけられたのだ。
「今失礼なこと考えたでしょ、ヤマダ!」
「……人の子を傷つけるような真似はおやめなさい。また、いたずらに信仰を失いかねませんよ」
「へんっ! ヤマダはね、死なない限りはアタシを信じてくれるって言ったもの! それに怪我しちゃうほど強くは踏んでないし!」
「それはそれで性質の悪い気がするのですが……」
少女はパイプ椅子に腰掛けて、ゼレーニン中尉に差し出された白湯を優雅に飲んでいる。
先ほどトラちゃんさんによって力ずくで小生の腹から引きずり出されたというのに、全くなんたる余裕であろうか。
ちなみに小生の生命力を使って無理矢理顕現させているせいもあって、小生の方は全く余裕がない。ウンウン何か大事なものを吸い出される感覚に悶えながら、彼女の横に横たわっていたりする。
半透明であるにもかかわらず飲んだものが消えていくという非現実的な光景を目の当たりにし、住人たちが目を丸くする中で、少女はほうっと息を吐いた。
「……白湯、まことにありがとうございます。けれども、お話の前にはお茶が飲みたいところですね」
「ちょっと、折角のこちらの善意にケチ付けて何!? 喧嘩なら買うわよ! お!?」
腰に手を当てて精一杯のメンチを切っているトラちゃんさんを手でうるさそうに払いながら、少女は住人たちを見回した。
「まずはご挨拶致しましょう――。私は"レミエル"。大天使"メタトロン"様の配下にして偉大なる主より幻視と雷の権能を授かり、人の子らの魂を見守るお役目を任された天使の端くれです。貴方たちのことはヤマダの身体を通して常に心を痛めながら見ておりました」
"レミエル"という名からある程度は察せられていたが、やはり彼女は一神教の"天使"であった。ならば、当然の疑問が湧いてくる。
何故、彼女は難癖をつけにやってきた"天使"側につかず、我々"箱庭"の面々をかばい立てするような行動をとったのか?
その思惑が読みとれず、自ずとリーダーや"ギガンティック"のエースが半身に身構える。マッチポンプか何らかの策謀を警戒したのだろう。
口火に切ったのは、元々キリスト教徒のゼレーニン中尉であった。
「"レミエル"といえば、かなり位の高い大天使様よね……。でも想像と違って女性で、それに羽根も生えていないようだけれども」
「これは以前の依り代の姿を借りているだけですよ、ゼレーニン。"天使"の姿は貴女たちを余計に警戒させるだけだと思いまして――」
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