ハーメルン
僕が響になったから
halo work(3)

「いえ、特には。サイズもちょうどよいです」
「よかったぁ!響ちゃんにちょうど良いサイズがあって!」

 マスターも満足そうだ。そして、服を持ってきていただいた呉服屋のお姉さんも満足そうで何より。どうやら服のサイズは常に数種類あるそうで、特殊な体型じゃない限りはまず大丈夫だそうだ。今回は久しぶりのアルバイトということで、倉庫の奥から引っ張り出すのに時間がかかったとの事だ。そして、お姉さんが店を去ってから、少しだけマスターの喫茶店講習が始まった。

「それでは少し練習をしてみましょうか。とはいってもここはそんなに元気は必要ではありません。お客様が店に入ってきましたら『いらっしゃいませ』と笑顔を浮かべて下さい。一度やってみてください」

 ええと…笑顔を浮かべて、と。

「いらっしゃいませ」

 うまくできただろうか?とマスターを見れば、笑顔で頷いていた。大丈夫なようだ。

「うん…良いですね。響さんの声はよく通りますから、そのぐらいの声量で大丈夫ですね」
「ありがとうございます」
「あとは席にご案内するわけですが、お一人様はカウンターへ、そのほかのお客様はテーブル席へご案内するのが基本です。もし店が開いている時間帯はお一人様でもテーブル席で大丈夫です。まぁ、何日かホールを回していただければ感覚としてつかめると思います」
「判りました」

 まぁ、確かにそこは感覚的なものだし慣れるしかないだろう。個人店で完璧なマニュアルというのも無茶な話だし、ある程度こちらに裁量があるほうが、仕事としてはやりやすいと個人的には思う。そして、そのあと少しだけ運び方やコーヒーの出し方を教えてもらって、さっそくホールの業務へと向かう。

 さて、上手にできるか出たとこ勝負だ。



 今日は少し時間もあることだし、この喫茶で少し休んでみよう。そう思ったのが彼女との初めての出会いだった。古ぼけた喫茶店のドアを押し開けると、一人の女性が立っていた。すらっとした体型に、フィットした服、そして歩く姿は一本芯があるようにブレない。その姿に、思わず見とれてしまっていた。

『いらっしゃいませ』

 見るだけでも美しいのに、よく通り、なおかつ心地よく、聞いていると不思議と落ち着く声が私に向けられていた。

『お一人様ですか?』

 自然な笑みで迎えてくれる彼女につい見入ってしまう。いかんいかんと頭を切り替え一人だと伝える。

『かしこまりました。ではカウンター席にどうぞ』

 彼女はそう言うと、体を翻して私をカウンターへと案内する。その時、ふと、彼女の甘い、かといってしつこくない良い香りが鼻に届き、思わず頭がクラっとする。

『ではこちらにどうぞ』

 さっと椅子を引く彼女に促されるまま椅子に座り、とりあえずとレギュラーコーヒーを注文する。そしてカウンターの奥へと目をやるとマスターが慣れた、そして落ち着いた動作でコーヒーを淹れ始める。うん、見ているこちらも落ち着く所作だ。なぜいままでこの喫茶店に入らなかったのかと少しだけ後悔する。
 そして彼女はと、目をやると落ち着いた様子でカウンターの端に佇んでいた。こちらの視界に入りつつ、それでいてこちらの邪魔をしない絶妙な位置だと思う。
 …それにしても彼女は珍しい髪の色と瞳の色をしている。銀髪青目ということはアルビノだろうか?制服の隙間から望む肌も驚くほど白い。

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