work a talk(1)
アルバイト初日。街中で見かけたような人もいたし、まったく見たことのない人もいた。ただ、そんな人たちに共通することがあった。全員が全員、僕をじいっと見つめてきていた。それはもう、僕がそれぞれの人に視線を向けるまで常に。そして、そういう視線というのは、見られている本人は誰からどこを見られているのがよく判る。
髪の毛を見てる人もいれば、僕の目を見る人もいる。首筋を見てる人もいれば胸元とか脚とかを見ている人もいる。
ただ、基本的に視線は顔と髪の毛あたりに集中していたから、やっぱり髪の色と目の色が珍しいのだと思う。僕も銀髪青眼の子がいたら確かにじっと見てしまうと思う。中には脚を見ていた人もいたけれど、まぁ、そういう人は男性であったし、僕が今女性なので仕方のない視線だと思う。
まぁ、その、僕はどこを見られても構わない。減るもんじゃないし。何より別に僕は中身が男なので見られても別に気にしない。僕が言えるのはただこれだけだ。
ただ、仕事自体はすごく充実していた。視線は別として、この喫茶店に来る人は皆礼儀正しいし、粗相もなかった。こちらがコーヒーを持っていくと、ありがとう、と返してくれたし、次回もまたくるよと気軽に声をかけていただいた印象が強かった。
「響さん、本日はお疲れさまでした」
馬鹿なことを考えながら店の片づけをしていたら、マスターからねぎらいの言葉をかけられていた。そして、マスター曰く、今日は久しぶりに客足が増えたとのことで、働いていた僕としても嬉しい。
「響さんが可愛らしいですからね。普段来られない方も顔を見せに来ていました。助かりましたよ」
そう言われると照れくさい。笑顔でありがとうございますとマスターにお礼を言うと、いえいえこちらこそと笑顔で言葉が返ってきた。そして、店の片づけがひと段落したところでお待ちかねの賄いが用意された。
「今日は店が盛況でしたから、残り物しかないのですが…」
申し訳なさそうなマスターが用意してくれた賄いメニュー。本日の残りのサンドイッチと、マスター自慢のコーヒーだ。うん、十分、十分。コーヒーは言わずもがな、苦みが少し強いけれど香りがよく、飲んでいて飽きない逸品だ。サンドイッチはツナ、タマゴ、トマトなどが挟み込まれていて飽きない。何よりタマゴサンドのタマゴがすごく分厚くて食べ応えがある。
「いかがですか?」
「とっても美味しいです」
マスターと軽く受け答えをしながらも、サンドイッチを頬張る。そして合間にコーヒーを含み、味を楽しむ。充実した仕事上がりのこのひとときは至福と言えると思う。
「それで響さん、ここは続けられそうですか?」
「はい。マスターもお客の皆さんも優しいですし、続けられると思います」
「そうですか、それはよかった。また明日もよろしく頼みます」
「はい!よろしくお願いいたします」
本当にそう思う。マスターも笑顔だし、お客さんも笑顔、それにコーヒーも軽食も賄いもおいしい。僕にとっては最高のアルバイトだと思う。…ただ、響ボディのせいかサンドイッチじゃ足りない。制服から着替えてここを出たら、何か軽食を考えようと思う。
◆
アルバイト先から帰宅しようと街を歩いていたところ、どこからかパン屋の良い香りが漂ってきていた。周りを確認してみれば、数日前に朝食を食べたパン屋の近くだ。ちょうど小腹が空いているし、これはあのパン屋に行くしかないだろうと、僕は脚を急がせる。
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