Talk a walk(1)
「ロードバイクの経験はあるんですか?」
「はい。ロングライドとかは昔から。クリテリウムとヒルクライムレースも数回参加しています」
「なるほど。材質とかコンポの拘りってあります?」
「固いカーボンが良いです。コンポはシマノの105でホイールはフルクラムあたりが好みです」
「固いカーボンですか。となるとー、お値段抑え目だとGustoかスペシャライズドがおすすめですね例えば…」
僕が男の時に乗っていたのはスペシャライズドだ。黄色のターマックの54。それと同じようなものがあるだろうか。
「GUSTO RCR TE EliteのSサイズにして、ステムとコラムを調整して合わせるか、あとはスペシャライズドのAmira sportsの44ですかね。今お使いの自転車はどこのメーカーのを?」
「今はスペシャのターマックを使ってます」
「あー、それでしたらAmiraがいいですよ。女性用のターマックと言われてますから」
「なるほど。ええと、お値段はどのぐらいなんですか?」
「105で税込みで定価22万ほどですね。ただ会員になっていただくと7%、現金一括の購入で更に5%割引をさせていただきますので、税込みで19万ほどです」
19万。以前の僕であれば即決だった金額だ。だけど、今は前と違い安定した職がないのでポンとは払えない。もし使ってしまった場合は、貯蓄を切り詰めて4か月ぐらいしか持たなくなる。
「19万ですかー」
「ええ、更にフルクラムのレーゼロを入れようと思うと+10万ほどですね」
これは無理だ。うん、お断りするとしよう。
「そうですかー。うーん、考えさせてください」
「ええ、構いませんよ。高い買い物ですから十分に考えてから購入なさってください」
「はい。お時間とらせてしまって申し訳ありません」
「大丈夫ですよ」
ロードバイクの夢が破れた。実際はこれにウェアなども新丁しないといけないので、実際は40万近い出費になってしまうだろう。そうすると生活が成り立たない。仕方ないので一礼をしてショップを後にした。
ただ、アルバイトが始まってお金が貯まったら買うとしよう。ロードバイクはやっぱり捨てがたい趣味だ。
◆
気づいたら子供たちのちょっとしたヒーローになっていた。
スポーツバイクショップから出て暫く歩いた時、子供たちが橋の上から川の中の何かをずーっと見ていた。何だろうかと近寄ったところ、川、といっても用水路の中に猫が取り残されていた。擁壁の凸凹になんとか体をひっかけている状態で、あと少しで水流に流されそうな有様だ。
話を聞くと、大人を呼びには行ったらしい。だけど、もう30分ぐらいは誰も来ていないとのこと。まぁ確かに、猫ぐらいじゃあ動く大人は少ないだろう。うーん、何とか助けてあげたいけれど、僕じゃ何もできない。何より用水路の流れが速い。これではレスキューや警察をいれるしかないだろう。
「お姉ちゃんなんとかできないの!?」
そういわれても。水の上に立てるわけじゃないし…と、僕はふと思い出した。この体、響(仮称)は水の上に立てるじゃないか。
「あぁあ!流されちゃう!」
そして猫は今にも流されそう。ちらりと周囲を見渡すと、大人はいない。子供たちだけだ。それなら…ちょっとだけ目立つことをしようと思う。
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