Talk a stroll(2)
「けやきですね。それに柿渋が塗られている形です。更に丁寧に使い込まれていますのでこのいい光沢が出てるんですよ」
なるほどと納得する。彫り物が複雑な割に割れや欠けはほとんどない。すごいなと感心する。
「そういえば、この墨壺は何の鳥をモチーフに作られてるんでしょう?」
あとはこれが気になっていた。烏のようにも見えるし、ハトのようにも見えるし、もしかして鳳凰とかであろうか?
「聞き伝えるところによると、不死鳥らしいですよ」
ほう、と感心する。確かに、言われてから見れば細やかな装飾は不死鳥の火を思い起こさせるものだ。そして、僕が思わずこの墨壺に目を止めてしまったあたり、この体は本当に響なのかもしれない。ほら、響が言っていたじゃないか。不死鳥の名は伊達じゃないよ、と。
◆
大工道具のお兄さんに別れを告げて更に歩いていると、今度は古いコーヒーカップが目に入った。金で縁取りはされているものの、他は真っ白な陶器だ。お店のおばちゃんに話を聞くと、これは祖父が海軍の将校だったころに記念品としてもらってきたカップらしい。しばらく使っていないので放出しようと思ったとのことだ。
こんなところで海軍ゆかりのものと出会えるとは、ちょっと嬉しい。僕も艦隊これくしょんをやっているからか、こういうものは好きなんだ。断りをいれてカップを手に取って観察をしてみると、カップの後ろに桜と錨のマークが描かれ、そして収まっている箱を見てみれば、同じようなマークが描かれていた。なるほど、海軍のものだなと納得する。お値段は驚きの5セットで2千円だ。
「これで2千円は安くないですか?」
「いーのよ。結局使わないから。それに捨てるよりも使ってもらったほうがいいでしょ!」
とはおばちゃんの言葉だ。うん、確かに記念品とはいえ使ったほうがいいとは思う。飾っておくだけじゃせっかくのものがもったいないと思う。
「それじゃあ、このコーヒーカップのセット、もらおうかな」
「あら、お嬢さん貰ってくれるの!ありがとう!」
僕はおばちゃんに2千円を手渡し、おばちゃんからはカップを頂いていた。
「あとこれ!運ぶの大変でしょうから、もっていきなさい!」
「ありがとうございます」
と、おばちゃんからおまけで手提げ袋を頂いたので、それにカップを入れる。うん、ぴったりだ。さて、と、あらかたのお店を見たし、時間的に他のお店も空いてくるだろうし、蚤の市をそろそろ後にしようと思う。
そういえば今朝は人の目が特に気にならない。慣れたのかな?
◆
鏡に映るのは、髪の毛を完璧にセットされた化粧もばっちりの美少女だ。なるほど、素でもこの響(仮称)ボディは可愛かったけれど、化粧を施されると文字通り化けるのだなと他人事のように思ってしまう。
というのも、蚤の市を後にしてしばらくたった後、女性の店員さんに強引に引っ張られ、美容室の鏡の前に座っていた。
「君可愛いから素じゃもったいないよ!」
「タダでいいからモデルお願い!」
と、なぜか美容室のモデルになってしまっていた。どうやらコンテストに応募するということで、可愛い人やかっこいい人を探していたらしい。うん、響(仮称)ボディがプロのお眼鏡に適うのならば協力は惜しまない。それにモデルを受けると今後、お店を利用するときに割引が効くらしいので、今後この体で生活するわけだし、受けない理由はない。ただ、僕は床屋ぐらいしかいったことがないので、美容室という空間はすごい新鮮だ。
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