そんなものだから誰もパイル魚雷なんて考えなかったし、たとえ考えてもやろうとすらしなかっただろうと彼は言う。
しかし、うちの大井はそれをやってのけた。故に上は大騒ぎらしい。
なるほど。確かに責任はとっても良いと言いましたが、それは間宮の羊羹のつもりであって、お財布のつもりであって、パイル魚雷のつもりはなかったんです。
だから助けてくださいと手のひらコークスクリューでお願いすると、「手回しは済ませたので大丈夫ですよ」とデミ様は告げた。今度から神様仏様の後はデミ様である。
「必要に応じた変化は、人間という種の歴史が証明しています」
四度も提督を変える中で精神を病み、過酷な戦場を渡り歩いて生き延びてしまい、味方である鎮守府においても何百回と演習という名の下に理不尽な状況で戦わされ、ありとあらゆる苦渋を味わい尽くした。負け続け、追い詰められ、馬鹿にされ続け、解体もやむ無しと言われた先の出会い。その出会いが彼女の何かを変えたのだろうとデミ様は言う。
頭がこんがらがってきた。ようするに大井っちパネェということなのだろう。
デミ様は更に言葉を綴る。
大井がやった事は異常極まりない事態であるために、聞き取り調査が行われたのだが、その担当がデミ様であったようだ。
「私は尋ねました。嫌ではなかったのかな、体がそれを拒んだのではないのかいと。すると貴方の大井はとても興味深い事を言ったのですよ?」
嫌だった。吐き気がした。体が震えて、視界が揺れた。
それでも私が勝つためにこれが必要であると思い、思いこんだ。
恩知らずのまま、北上さんのところにいくわけにはいかない。そう思い続け、気がついたら震えは無くなっていた。いつの間にか魚雷に座っていた妖精さんが、仕方がないと楽しそうに笑っていたのだと。
「彼女は己の種という枠口を超える程に、誰に対してそんなに勝利を捧げたかったんでしょうね……?」
今後も期待してますよ、と扉を出て行くデミ様を呆然と見送る。
……え?うちの大井っちって、そんな殊勝なキャラだっけ?それは本当に私の大井っちなのだろうか?
頭を捻りながら取調室から出ると、腕を組んで壁を背にもたれかかっている大井の姿が目に入った。
いつもどおりのしかめっ面。への字に結ばれた口に、ジトっとした目。間違いなく、うちの大井である。
「……」
「……」
「……」
「……なんですか、提督」
「……いや、あの」
「……はい?」
「……なんでも、ないです」
「……チッ」
以前と変わらぬ雰囲気の悪さ。怖い。やっぱり気のせいだな。
ホッとして大井を連れ添いながら二人で歩き始める。
取り調べがしつこいだの、取り調べ担当の軍人の笑みが胡散臭いだの、しっかりと指揮がなされてればもう一人はいけただの。
そんな話を聞き流しながら、部屋に戻った。
演習の話を聞いたイケメンがめっちゃいい顔しながらやってきて、鬼のような顔の大井が睨み合いにもちこんだ。胃が痛い、やっぱりおうちに帰りたい。
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