十七話 歪さ
病院から退院して、何日か経った。学校としては夏休み明けの文化祭について話があり、部活としてはそこで行おうとしている演劇の準備を始めている。
「......」
「古雪~」
「あ、どうした?」
「どうしたはこっちが言いたいぞ。最近ボケッとし過ぎじゃないか?」
「そうかな...悪い」
俺は取り戻した平和な日常を、惰性で過ごしていた。
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バーテックスがいなくなったように、銀も消えた。まだいるかもと希望を持つには時間が経ちすぎた。
本来はこれが正常な形。死んだ人間が生きている人間と共存するなんて、他人が聞いたらアホかと言ってくるだろう。
これを受け入れようと努力はした。だが銀と過ごした二年間は大きく__________二度も別れが言えなかった事が、何より辛かった。
思い返せば、なぜあんなに気を失っていたのか、なぜ過去に後悔したことを繰り返したのかと自己嫌悪に陥る。
「せめて、最後の一言くらい言わせてくれよ...」
返事はない。理想は理想のままはかなく消える。
それからまともに寝れなくなった。寝ると銀との思い出が消えそうで、忘れてしまうことを何より怖いと思ったから。
景色も色褪せて見えるようになった。退院日、勇者部の皆でみた夕焼けは、いつか見た夕焼けと同じくらい美しかっただろうに、モノクロ世界に見えた。
「みんな、予定開けときなさいよ!海とか花火とか演劇の準備とか色々やる予定だから!」
部長の風の言葉で一学期最後の部活が終わる。
(...俺、夏休み終わった時生きてるのかな)
このままじゃダメなのは分かってる。
助けを求めようにも、こんな話をまともに聞いてくれる筈もなければ、銀が戻ってくるわけでもない。失った物は取り返せないし、過去には戻れない。
(満開して俺の命、丸ごと持ってけよ...)
こうして、夏休みが始まった。特にメールは来なかった。
寝るのが怖ければ寝ないようにするしかない。勇者になってから続けた筋トレは量を増やし、三ノ輪家の手伝いも食事だけでなく家事全般に手を出した。
「にーちゃん!遊んでくれよ!」
「あー悪い、こっちの終わらせたらな。お前らも早めに家事出来るようにするとモテるぞ?」
逆に、弟達と遊ぶことは少なくなった。銀のことを思い出してしまいそうで。
忘れたくないけど、思い返せば後悔の念が押し寄せてくる。だから何も思わなくていいよう他のことに熱意を注ぐ。わかっていてもやめられない。そうして俺の心は歪になっていった。
(...いっそ、銀の隣に行こうか)
基本寝ないが、勝手に何時間か経っている時があるので気絶でもしているんだろう。お陰で眠くはならない。
「...少し出掛けるか」
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「樹...暑くない?」
『暑いけど平気』
あたしと樹は椿の家に向かっていた。前に行ったことがあるから場所は分かる。
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