終端
「……何もないね。 ちーちゃん」
「そう……だな。 ユー」
暗い暗い階段をひたすら登って、登って、登り続けて。
足が痛くなっても疲れてもお腹が空いてもランタンの光が落ちても登って。
何も見えない階段を一歩歩くごとに死を身近に感じて。
それでも私とユーは手を繋いで歩く以外に登る以外に何も無かった。
怖くなれば、ユーの手をぎゅっと握る。
握ればユーもお返しとばかりに安心を確かめ合うように握り返してくれた。
そして、登り切った結果がこれだ。
周りには壁は無く建物もない。
ただただ広い場所に白い雪が積もっているだけだ。
人の影も形も無く、食料があるわけでもない。
本当に何も無かった。
「……」
「……」
何も無い最上階をずっと二人で眺める。
その間、私達に会話はない。
疲れきって声すらでないのだ。
それでも手を握れば、ユーは力強く握り返してくれる。
(……いろいろと失ったな)
ユーの温もりを感じながら、此処までの旅路を思い出す。
(私達の世界は終末を迎えた)
生まれたときからそうだ。
人類は数を減らし、海の上に作られた各階層に分かれた街で私とユーは暮らしてた。
親に捨てられて、おじいさんに拾われて配給を糧に生きて。
少ない配給であったが三人で慎ましく暮らすには十分だったし、今思えば幸せだったと思える。
(そんな日々も呆気なかったな)
ある時、おじいさんに呼ばれて食料と武器と本……それに乗り物のケッテンクラートを託されて街を出る。
おじいさんに手を振られて街を去っていく私達。
街からある程度距離を離し、振り向いた先では銃声と叫び声と火と煙が街を覆っていた。
あの時は理解出来なかったが今なら判る。
少ない物資を巡って争いが……戦争が起きたのだろう。
それからの日々は繰り返しだ。
ケッテンクラートで移動して、食料を探して、水と燃料を補給して眠っておじいさんに言われた通りに上に向かう。
たまに人と出会ったりもした。
(人と言っても二人だけだけど)
一人目はカメラをくれたカナザワ。
街を出て初めて会った人であり、大人の男性だ。
大きな溝を前に立ち往生している時に出会った。
(建物を壊して橋をかけるとか……よく考えたら危ないだろ)
危うく潰されそうになった事を思い出し、少しばかり腹が立つ。
しかし、橋が作られ先に進めるようになったのは事実であり実際助かった。
そんな地図を作って旅をしていると言うカナザワと少し旅を共にする。
カナザワは乗り物が壊れてしまい足が欲しく、私達は道を知りたかった。
その後は地図が生きがいと言うカナザワに対してユーが地図を燃やそうと言ったり。
上層に行く時にカナザワが地図を下に落としてしまい、落ち込んで死のうとする彼をユーと二人で必死に止めたりと色んな出来事があった。
(生きてるかな。……カナザワ)
結局、上層に着いてもカナザワは落ち込んだままだった。
そんなカナザワを立ち直らせたのがユーだ。
人も居ないのに輝く街を見て、座り込んだカナザワにユーは自分の食料を渡し言った。
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