ハーメルン
少女牧場物語
玉菜

「おぉー……真っ白い」
「こっちの畑には来た事なかったけど……あまり変わらないな」

 チトとユーリは互いに目の前の光景に関して感想を言い合う。
感想と言っても、目の前の光景は雪ばかりであり、特に感想と言う感想もない。
そんな二人は何時もの軍服ではなくぶかぶかの青いツナギと軍手を着けて青年の指示を待っている最中である。
今日、これから二人が行なうのは初めての体験、初めてのお手伝いだ。
本来であれば春からと言われていた仕事だが、どうやら何かしらの訳が出来たらしい。
詳しくはチトもユーリは、教えてもらえなかったが『大事なことなんだ。 今日の午前中だけお願い』と青年に頼まれた。
それを聞いてチトは迷う事もなく『勿論』と頷き、ユーリも手を上げて同意した。

「今日は何を収穫するんだろう」
「さぁ……野菜なんて本の中とイモしか見た事ないし、雪しか見えないけど何処にあるんだろ」

 そんな二人は東の畑へとやって来たのだが、キョロキョロと辺りを見渡すも野菜らしき物はない。
あるのは一面の雪と所々に刺してある木の棒位であった。
ちなみに青年は何やら道作りのための雪かきをしており、二人の前には居ない。
最初はそれも手伝おうかと思い提案するも、青年からは却下されたのだ。
青年から『雪かきは嫌ってほどするし、後で後悔するよ』と告げられた。

「……雪の下かな」
「野菜なのに?」
「ならユーは、何処にあると思うんだ」
「地下とか!」
「ここにか?」
「家にもあるし、ありそう」
「……否定出来ないのが辛い」

 青年が来るまで暇となり、互いに何処に野菜があるのかを考える。
チトは無難に雪の下、ユーリは意外性で地下を選ぶ。
チトがユーリの予想にないないと手を振るも、直ぐに家の地下を思い出し何とも言えない表情となる。
土があれば、何処にでも畑を作りそうな青年である。
ここの地下もそのように改造されていても驚きはない。

「おかえり」
「××××、野菜って何処にあるの?」

 暫くそんな話をしていれば、青年がスコップを片手に戻って来た。
どうやらチト達が話し合っている間で道を作り終えたらしい。
青年の後ろには木の棒に沿って綺麗な道が出来上がっていた。

「スコップ……やっぱり掘るのか」
「ちーちゃんの予想当たってたね」
「地下とか言われなくて良かった。 畑が増えたらどうしようかと……」

 青年はユーリの疑問に対して、スコップを渡し『雪下にあるんだ』と答え、木の棒の近くを掘り出していく。
良く見れば木の棒と木の棒の間は一定の間隔であり、ロープが同じ高さで結んである。
青年はそのロープの上の雪をスコップで掻き出した後、手でその更に下を掻き出す。

「これが……」
「すげー! 本当に野菜だ!」

 手で丁寧に掻き出せば、今回収穫する野菜が見えた。
雪の下にあったというのに枯れた様子もなく、綺麗な緑色の葉っぱを力強く主張している。
その野菜は春、夏、秋、冬と一年中栽培される一般的な野菜であり、雪下で育った場合は甘味と旨みが一層にます。

「何て言う野菜?」
「……キャベツって言うのか」

 そう、今回収穫する野菜は玉菜(キャベツ)であった。

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