哀愁
「んー……」
「ははは、もふもふだ」
「んんー……」
「ヌコはもちもちで良かったけど、犬はふかふかでいいなー」
「ユー……お前も考えろよ」
あれから、話を一旦置きフランクに機械の説明と操作方法を簡単に教わった。
簡単にと言っても種類も多く、チトとユーリが一通り触り終わった頃には日が暮れる。
しかし、困ったことに日が暮れても青年は帰って来ない。
里を廻って誤解を解いているので時間が掛かるのはしょうがなかった。
それでも、青年の叔父とはいえ、フランクはあまり知らない人。
そんな人の家で待たせてもらうと言うのは居心地が悪い。
そんな考えをしているチトを知ってか知らずかフランクは夕飯をご馳走してくれるらしく、チトとユーリを家に上げると嬉しそうにキッチンに立っている。
そんな嬉しそうな彼をチトは、不思議に思いつつも居心地の悪さを昼間に出た話題について考えることで誤魔化すことにした。
考えるのはケッテンクラートの事だ。
テレビを見て、同じ物がある事を知り、あの時チトの心は大きく揺れた。
もっとも、テレビに出ていた値段を知り諦めた。
青年に聞けば、『去年の年収と同じ位』と言われたのだ。
生活に必要な物であれば、この先生きて行くにあたって必要な物であれば、しょうがない。
しかし、ケッテンクラートは違う。
牧場を見れば青年がどれだけ頑張ってきたのか、その一旦であるがチトにも理解出来た。
だからこそ、そんな青年の一年を無駄にするような事を言えず諦めたのだ。
しかし、フランクの家でケッテンクラートの必要性が少し出てしまった。
青年の牧場にはピッタリな乗物なのだ、ケッテンクラートは。
牧場の他に農業や林業などを行う青年の牧場に置いて、兼業出来る乗物はありがたい。
「まだ考えてるの?」
「だって……一台で済むけど、他の機械を全部買うよりも高いし」
「でも、作業のたびに乗り換えないと行けないじゃん。 あと運転するちーちゃんはケッテンクラートの方が慣れてるし、楽だよね」
「そうだけど……」
ユーリの言葉にチトは目を瞑り、倒れるように額を机に押し付ける。
そしてそのまま唸った。
どちらにも一長一短があり、それが余計にチトの頭を悩ませる。
経済的に言えば、他の機械をとも思うが置き場所など整備の手間を考えると此方も安いとは言えない。
ならばケッテンクラート一択かと思うが、此方は此方で出来ない作業もある。
「どうすればいいんだ~」
「素直になってケッテンクラートがいいかもって言えばいいじゃんか」
「うー……乗りたいけどさ、乗りたいけども。 これ以上の恩を受けてどう返せばいい」
「自惚れてるね。 ちーちゃん」
「何処が」
頭を悩ませているチトに対して、ユーリはお気楽だ。
口元に手を当て、ユーリはうふふとチトを笑った。
それにカチンと頭に来てチトが顔をユーリに向ける。
「別にちーちゃんの為だけに買うわけじゃないよ? 牧場の為でもあるんだからさ! ちーちゃんはケッテンクラートに乗れて嬉しい、××××は出来る事が増えて嬉しい。 それでいいじゃん」
「う゛」
「考え過ぎだって、楽しく生きようぜ!」
「お気楽過ぎるだろ」
「ちーちゃんが考え過ぎなんだよ」
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