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ああメーデーメーデー。こちら早苗、想定外のアクシデントに遭遇した。繰り返す。想定外のアクシデントに遭遇した。大至急、救援部隊を寄越されたし。
なんてことだ。最大の難関だと思われた、霊夢さん宅への侵入をあっさりと潜り抜けて、完全に安心し切っていたというのに。まさか、ここにきて新たな難関が立ち塞がっていたとは。こんな展開は流石に読めなかった、この早苗の目をもってしても!!
ええ、なんと言いますかその、霊夢さん……まだ起きてるっぽい。寝室の襖から明かりが零れてるし、そっと聞き耳を立てれば、室内から微かに物音がするし。どう考えてもこれ、明らかに起きていらっしゃいますよね。
えっ嘘。いま夜中の一時過ぎですよ。もう少しで草木も眠ろうかという時間帯ですよ。それなのにこんな時間まで起きてるって。何やってんの、この人は。
くそ。取り敢えず、この場は即時的な戦略的撤退をするしかあるまい。
ここで霊夢さんに遭遇するのはとても不味い。どう考えても任務遂行に支障が出るし。その上、私は霊夢さんから不法侵入者扱いを受けて、何かしらの制裁を食らう可能性だってあるのだから。
無論、ターゲットを目前に捉えての撤退ほど悔しいものはない。本音を言えば、この場に踏み止まりたいところだ。しかし、デメリットしかない選択肢を無理に強行するのはあまりにも愚策。ボムの数がフルの状態で抱え落ちするぐらいの愚行と言えよう。
大丈夫。この撤退はあくまでも一時的なもの。霊夢さんが眠りについたら任務再開である。
そう考えた私は脂汗を垂れ流しながら、忍び足でそっと寝室から遠ざかった。板張りの廊下をゆっくりと慎重に。地雷原を歩くかの如く。ここで物音をひとつでも立てたら、その時点で霊夢さんに気付かれて即刻アウトである。正にギリギリの撤退戦だ。
ああ、でもなんだろう、この感覚。非常に危機的な状況にも拘らず、胸が凄くドキドキして……なんかちょっと楽しい。気分はまるでスネークのようである。ダンボールがあったら隠れてみたい――どうも東風谷早苗です。
あれれ。もしかして、私って意外とスリルジャンキーの素質があったり。ああ……だから、地獄の女神様と対峙した時も「この変なTシャツヤロー!」とか言って、わざと相手を怒らせて自分を追い込むような真似をしたのかも。更なる極上のスリルを求めて。
そうか、私はスリルジャンキーだったのか。なんだか自分の新たな一面を発見しちゃったなあ。うふふっ。危険なことが大好きだなんて、早苗ったらいけない子。
「――誰かそこにいるの!?」
あっヤベえ。自分の世界にトリップするあまり、霊夢さんへの警戒をうっかり怠ってしまった。
どうしよう気付かれた。これは非常に不味い。非常に不味いけど……この状況にちょっとだけワクワクしてる自分はやはり、度し難いスリルジャンキーなのだと思いました!――いやいやいやいや。何を冷静に自己分析してるの。いまはそんなことをしてる場合じゃないでしょうが。この状況をなんとかしなければ!
よーし、オーケーオーケー。落ち着いていこう。まだ慌てるような時間じゃない。幸いなことに霊夢さんは寝室の中、つまりはこちらの姿を視認したわけではない。それならば、まだ救いがあるというものだ。どうにかこうにか霊夢さんを誤魔化せるかも知れない。
「にゃ……にゃんにゃーーーん」
「いや、だから誰よアンタ? あっ……もしかして、サンタさん!?」
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