第十七話
「お前は血界の眷属とやらを単独で屠ることが出来るか?」
「下位のものであれば」
「……下位?」
コルネリウスの返答に対し、声に不機嫌さを滲ませた少女。それだけで会議室の緊張感が一気に高まった。少女の両脇に座るカルネウスともう一人の付き人は冷や汗を流し、大勢の護衛や居並ぶ重役らしき面々に至っては青褪める者すらいる始末。知らぬ者が見れば、少女の声音一つでここまで動揺する彼等を、世界的大企業の首脳陣なとど思いはすまい。
だが、たかが少女と侮るなかれ。彼女こそがこの部屋の、そしてVDの主なのだ。ヘッドホンと一体化したかのようなヘルメットで目元を隠す少女。名をミラ・ゴードンといい、傾きかけていたVD社を瞬く間に軍需産業界、ひいては世界経済の雄にまで押し上げた辣腕である。
そしてその性格は、経営手法と同じく苛烈であると言われている。HLでは報道の自由とそれを防ぐ自由があり、ついでに言えば過剰防衛という概念が無いので真相はわからないが。
「つまり、下位でなければ倒せないと?」
「確実だと言えるのは、そこまでです。中位のものでも、条件さえ整えば」
「その上は」
「限定的な対処が限界です。そも単独で戦って良いような相手でもありませんが」
その言葉に対し、考えるかのように口を閉じるミラ。
「資料も裏付けも無い曖昧な基準ではありますが、彼一人ですら倒せる吸血鬼も多いということでしょう。であれば外部の人間を使う必要などありません。専門のチームを用意し、早急に処理すべきかと」
彼女の沈黙を否定的なものと取ったのだろう。コルネリウスに胡散臭げな視線を向けていた重役の一人が発言するが、対するミラは口元を歪めた。
「旧式混じりとはいえ、我が社のサイボーグ十七体とその他軍事ユニット多数。それを一蹴してのけた相手を、貴様は確実に仕留められると言うのだな。無論、候補者を守った上で」
「敵の分析と準備さえ入念に行えば――」
「映像記録に映らぬ相手への対策を、短期間でか。……今この時も我が陣営に被害が出ていることを考慮すれば、悠長な話であるはずが無い。良いだろう、出来るのだな?」
「あっ、いえ、その……」
当然ながら、二度目は無い。言外にそう告げているかのような冷たい声。提案した男は見るからに動揺し、それを取り下げて謝罪した。縮こまった男からつまらなそうに視線を外したミラは、手元にあったリモコンを操作。部屋の照明が落ち、壁に生まれた影に映像が投影される。
戦闘の様子が映されたそれは、件の推定吸血鬼に関するものであろう。マズルフラッシュや爆風が多く、決して見やすいものではない。だが宙空で静止し潰れた弾丸や、煙を突っ切るように移動する人型のような空白部。近接戦を挑んでは切り裂かれ、粉砕される戦闘サイボーグ達が、確かに敵が存在することを伝えていた。ミラはそこで映像を一時停止させ、コルネリウスに問いかける。
「生存者がいないため、記録はこの映像のみだ。これは、血界の眷属か?」
「戦闘能力からして、恐らくは。ただし、異なる種でも同じことは可能です。過去にはあえてそうすることによって敵に誤認させ、譲歩を引き出そうとする輩もいましたので」
コルネリウスは断言出来ないことを若干苦々しく思いつつも、そう答えた。映像記録の護衛達の死に様を見るに、敵はほぼ人型の四肢を用いて相手を蹴散らしている。つまり吸血鬼の十八番である、肉体を大幅に変化させる戦い方を用いていない。
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