ハーメルン
code;brew ~ただの宇宙商人だったはずが、この地球ではウルトラマンってことになってる~
3
3
変身前からブリュウの抱いていた不安の臭いは怪獣を目の前にしてより濃いものとなっていた。
「なんだ、お前は?」
大体の予想がついているにも関わらず、ブリュウは聞く。本来の姿を取り戻したブリュウは能力を取り戻す。宇宙人が持っているごく当たり前な能力、微弱なテレパシーが目の前の怪獣の声を聞いていた。
『俺はおしまいだ。もう生きている理由もない。』
「ふうん、影、か。」
ブリュウは宇宙に散らばる伝説に詳しかった。商売をする反面、そういう噂の類を知ることもできるため、彼は一つどころにとどまらず、あらゆる惑星へと旅をしているのであった。
「かつてほろんだ文明が生み出した精神を物理世界へと投影する方法。でも、それは所詮影でしかないわけだろう?」
怪獣は頭を抱えて苦し気に歩いているだけだった。ブリュウのことなど眼中にない。
そんな怪獣の皮膚に小さな爆発が起こる。
「なんだ?」
そう思いブリュウが周囲を見回すと、そこには一機の戦闘機が飛んでいた。
「まあ、そんな攻撃では倒せないだろうが。」
ブリュウの言う通り、怪獣は無傷のままだった。
「で、もう一匹、と。」
今度は戦闘ヘリが爆撃を加えていた。
「多分、今の技術だと一番効くのは戦車の砲弾じゃないかな。まあ、今の技術で昔のティガー戦車並の武装を作れば、だけど。超電磁砲は少しやりすぎだろうし。」
ブリュウの言葉は地球人には通じない。そもそも大気のない環境が当たり前である宇宙人は通常大気中の空気を振動させて話すということはしない。確実なのは光通信だが、それも古典的だ。思念波動を送り、受信することによって会話するのが一般的だ。遺伝子レベルでの認証なので、互いにチャンネルを開き合った者同士だけの会話ができる。
「ああ、俺は3分だけしかこの姿になれないんだったな。この巨体のまま活動できる存在は相当根性あるな。」
そういいつつ、ブリュウは胸の球体から一本の刃物を出す。
「これぞパンナコッタ星の伝説の鍛冶職人の作った包丁――の工場大量生産品だ。」
ブリュウはその刃物を怪獣に突き刺す。その瞬間、影は跡形もなく消え去った。
「実体のない存在、影。ただ、その発生源をなんとかしなくちゃ大変なことになりそうだ。」
ブリュウは眼下の町の様子を見ていた。地球人たちが驚き焦りながら避難をしようとしている。
「こんな状況じゃあ、いい商売はできそうにないからな。」
ブリュウの読みは当たった。ちょうど怪獣の暴れていた場所に一人の男がいた。その男は怪獣が暴れていたことなど知らないというように、頭を抱えていた。ひどく煩悩しているようである。
この男が怪獣を作り出した張本人に違いないとブリュウは感じた。とはいえ、ブリュウにはどうすることもできない。ただ、声をかけてやることしかできなかった。少しでも前向きになるようにと。ブリュウは男の負の感情が影を生み出したのだと考えた。再び生み出す可能性を少しでも小さくするための処置である。ブリュウは自分の言っている言葉が男を励ますことになるのか自信はなかった。しかし、そのとき紡いだ言葉しかブリュウは言うことができなかった。しないよりかはマシであるという判断である。
「問題なんて問題じゃない。悩んでるのはやろうかやるまいか迷ってる、か。」
言われた男はブリュウ達が去った後も公園に残っていた。デスクにいた頃はあまり拝むことのできなかった青空を望みながら。案外こんな生活も悪くないと思えるようになっていた。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/17
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク