ハーメルン
code;brew ~ただの宇宙商人だったはずが、この地球ではウルトラマンってことになってる~
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「結局デートするの?」
 私は突然かかってきた見知らぬ番号に出た。流石に怖かったけど、色々とあり過ぎて、もう怖いのなんのと言ってられない。
『ああ。楽しみにしてるぜ。』
 電話の相手は一ノ瀬だった。沙耶から番号を聞いたらしい。
「沙耶は大丈夫なの?」
 あの後、例の何とか隊の人が沙耶を病院に連れて行ったのだ。
『ああ。異状はないから、すぐに出た。』
 よかった、と私は胸をなでおろす。沙耶に何かがあったらと、気が気ではなかったのだ。
「でも、どこに行くのよ。」
 この近くにデートできるところなんて、正直ない。
『スリラーパーク。』
「よりにもよってスリラーパークって。」
 この町にもバブルの頃、遊園地ができていた。パパ曰く、いや、お父さん曰く、国がばら撒いた助成金がどうのって言ってたけど。昔のことなんてよく知らない。そんな遊園地はあっという間に閉鎖されてしまった。でも、最近、どっか都会の会社が買って、営業を再開したらしい。もっといい場所があっただろうに、というのが本音。
「行くならユニバとかにしなさいよ。」
 行くだけで三時間はかかるが、田舎の落ちぶれたテーマパークよりはいい。
『俺もFFとか興味あるけど、金がないし。』
 この、甲斐性無しが。私もお金はない。お母さんからもらうにも小言を言われかねないし。
『じゃあ、明日。十一時にスリラーパーク前に。』
「はい、はい。」
 まあ、あんなことがあったのだから、沙耶の気持ちを落ち着かせるには楽しむに限るだろう。でも、一つ、問題が。
「宇宙人。」
「なんだ。」
 私は宇宙人の部屋の前で呼びかける。
「明日、遊園地でデートだって。」
「そうか。それは良かったな。」
「あんたも行くの。」
 扉を隔てて、宇宙人は沈黙していた。
「嘘だろ?」
「行きなさい。」
 なんだか宇宙人は迷っているようだった。私は回答を待たずに部屋に戻っていく。別にアイツが来なくてもいい。
 昔、翔一の家族と一緒に遊園地に遊びに行ったことがあった。スリラーパークより大きな所だ。名前は憶えていない。
 私は翔一と遊園地に来たことが嬉しくって、でも、親がいるのがなんだか恥ずかしくって、二人で親から離れていってしまった。私が翔一の手を引いて、勝手に連れて行ったのだ。翔一はこまった顔をしていたけど、私は気にしなかった。でも、楽しかったのは初めだけだ。私はだんだん心細くなっていって、気がつけば、親と完全にはぐれてしまっていた。迷子だ。私は翔一がいてくれたにも関わらず、不安で、怖くて泣いてしまった。風船を配っている着ぐるみの表情が変わらなくて、不気味だった。
『大丈夫。きっと大丈夫だから。』
 翔一はそう言ってずっと私を励まし、手を引いて遊園地を歩き回った。しばらくして、親が見つかった。私は真っ先にお父さんとお母さんに抱きついた。そして、お母さんの服の上に大粒の涙を流した。気がつくと、翔一も私と同じように翔一のママに泣きついていた。私は翔一を見ていなかった。自分が泣くのに必死で、私を連れて歩いていた翔一の顔を見ていなかった。きっと、翔一も泣きそうだったに違いない。でも、私が不安になると思って、ずっと涙をこらえていたのだ。私は私を恥じた。そして、翔一のことが、もっと好きになった。幼いながらに芽生えた、熱い感情。きっと、あの時私は翔一に――

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