第二話 使い魔生活の始まり
「それって、本当?」
ユマの話を聞いたルイズは、疑わしそうな顔をしてそう言った。
二人は今、ルイズの自室で向かい合ってテーブルにつき、夜食のパンを食べながら話をしている。
部屋にはアンティークのような家具が置かれ、学生の私室とは思えない広さと豪華さだった。
「嘘をついても仕方ないわ。証拠は、ちゃんと見せたでしょ?」
「それはまあ、そうだけど……」
ルイズは顔をしかめて、テーブルの上に広げられたユマの私物を見つめた。
主に彼女が所持していた鞄とその中身、つまりは学校の授業で使っている教科書とか筆記用具とかである。
本は光沢のある不思議な紙でできていて、きれいな活字で見たことのない文字が並んでいる。
そして実物と見まがうような美しい挿絵が、あちこちを飾っている。
それらの挿絵に描かれている様々な場所や建物、人物には、ルイズが見慣れたものはひとつもない。
筆記用具にしてもまるで馴染みのない奇妙なものが多く、その中にはガラスのように透き通った未知の軽い材質でできた定規なども含まれていた。
工業の発展した新興国家のゲルマニアや、ガリアの大都市にも、おそらくこんなものはないだろう。
しかもユマの言葉を信じるなら、それらの本や道具はいずれも魔法を一切使わずに、平民でも扱えるような技術だけで作ったのだという。
そもそも、彼女の故郷にはメイジがいない、もしいるとしてもほんの少しで、一般には知られていないのだとか。
「…………」
にわかには信じがたい話だった。
確かに彼女の所持品からみて、ユマがハルケギニアとはかけ離れた、しかし辺境の田舎などではないどこか高い技術を持つ場所からやってきたことは間違いない。
しかし、それがこことは違う異世界だなどという話は、突飛すぎて容易に受け入れられるようなものではなかった。
落ち着きのある子に見えるが、子供ゆえに突然の環境の変化に内心では動転していて、大袈裟な思い込みをしているだけなのではないか……。
いろいろと考えた結果、ルイズはユマの故郷がハルケギニアではないずっと遠くの国、もしかすると東方のロバ・アル・カリイエのどこかの国なのではないか、と推測した。
ハルケギニアとはほとんど交流はないものの、東方には最強の亜人と悪名高いエルフたちに対抗する高い技術を持つ人間の国家があると言われている。
そのことを伝えてみたが、彼女は首を横に振った。
「どんなに遠くに離れても、月が二つになったりはしないわ」
「? 何言ってるのよ、月が重なるスヴェルの夜以外は、月は二つに決まってるでしょ」
「私たちの住んでいたところでは、そうじゃないの」
ユマはそう言って、窓の外に目をやった。
そこには、地球のそれよりもずっと大きい、しかも赤と青の二色の月が輝いている。
「……信じられないわ」
「そうだと思う。でも、本当だもの。だから、異世界に間違いないの」
ユマはそう言いながら、理科の教科書をぱらぱらとめくって月の写真を探し、ルイズに見せた。
「これが、地球の月。白っぽくて、小さく見えるの」
「絵なんか、好きなように書けるわ」
「絵じゃないの、写真よ。……そうね、鏡に映った景色を、そのまま紙に移したようなもの」
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