第十五話 絶望に触れてみて
何しに来たんだかわけが分からないが、僕ら『三人+一匹』のご一行は病院から家に帰ることになった。
「本当に時間、無駄にしちゃったねー。美樹さん」
僕は嫌味たらしく、美樹に言ってやる。
「悪かったわよ!後でジュースでもおごるから。まどかもそれで……って、どうしたの?」
鹿目さんはさきほどから病院の壁の方ををじっと見つめていた。
最初は、美樹のなめた態度に、菩薩のような彼女もとうとう切れたのかと思ったが、それにしてはどうにも様子がおかしい。
「本当にどうかしたの?鹿目さん」
「あそこ……何か……」
鹿目さんが指を指した場所を見ると、病院の柱に『黒い湯気のような物を纏った何か』が突き刺さっていた。そして、僕はすぐにそれが何か理解した。
グリーフシードだった。
そんな馬鹿な……。あれは魔法少女のなれの果てなんだから、あんなところに刺さる理由なんてあるはずが……。
『グリーフシードだ!孵化しかかってる!』
鹿目さんの肩にぶら下がっていた支那モンがいつもよりも大きな声を出した。
まさか……こいつか!こいつがあそこにグリーフシードを埋めたのか!?
確かさっき、美樹がお見舞いに行っている間に、鹿目さんが飲み物でも買ってくると言って席を外していた。僕もその時にトイレに行っていた。
その短い時間の間、支那モンを認識できる人間はその場には誰一人いなかった。つまり、支那モンは間違いなくその間『自由』だったということだ。
これはあくまで僕個人の想像に過ぎない。しかし、いくら何でもタイミングが良すぎる。
『鹿目さん』が『支那モン』を連れている状況での『孵化しかけのグリーフシード』。そしてその病院には、彼女の親友の大切な人であろう上条君が入院している。
笑ってしまうほど、できすぎた状況。僕は『何者かの悪意』を感じられずにはいられない。
『マズいよ、早く逃げないと!もうすぐ結界が出来上がる!』
支那モンの焦ったように聞こえる声が、僕の耳には酷く白々しく響いた。
だが、ぼうっとしている時間は、僕にはない。
うろたえてる鹿目さんに僕の携帯を渡した。
「鹿目さん、巴さんと暁美さんの電話番号が入ってるから電話して。多分二人とも一緒にいると思うけど」
「う、うん」
「美樹さんは、いざとなったら鹿目さんを連れて逃げて」
「に、逃げるって・・・。政夫、アンタ何かする気なの?」
「まあね」
できればやりたくないのだが、迷ってる暇はなさそうだ。
ここには父さんが働いている。僕のたった一人の大事な肉親が。
だったら、どうにかしなければいけない。
「支那モン、ちょっと来て」
返事も待たずに、鹿目さんの肩にぶら下がっていた支那モンを引っつかむと、そのままグリーフシードが刺さっている柱に近づいた。
グリーフシードまでの高さは大体目測で僕の頭上3センチというところだろう。グリーフシードの形状は巴さんが見せてくれた奴とほぼ変わらない。ならば、柱に埋まっているのは先の尖った部分が1,2センチほどのはずだ。
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