ハーメルン
Fate/Advent Hero
第6話「願いと正義」

 前方から振り上げられた拳が飛んでくる。真司は甘んじてそれを受け入れた。

「痛ってぇ!」

 …と言いつつ、真司は殴られるタイミングに合わせ、首を捻って頬に伝わる衝撃を受け流す。
 ライダーバトルの経験がこんなところで役立つとは思っていなかった。
 鬼蜻蜓のように速く鋭いライダーたちの拳に比べれば、目の前の大柄な少年の拳など、蝿が止まれる速度だ。

「っつぅ〜…」

「弱い奴がしゃしゃり出てくんな!」

 頬を押さえて、大袈裟に痛がっている振りをしている真司の演技には気付かず、大柄な少年とその取り巻きたちは下卑た笑い声を上げた。
 彼らを極力刺激しないように、真司も苦笑いをする。

「も、もう気は済んだろ?ここは俺に免じて———」

「———おいっ!こいつは関係無いだろ!どうして殴ったりなんかした!」

 …真司の演技に気づいていなかったのは、赤毛の少年も一緒だったようだ。
 せっかく自分が身を呈してこの場を収めようとしているのに、余計なことをしてくれる。…心配してくれているのは素直に嬉しいが。
 思い通りにならないこの状況に、内心で頭を掻き毟りながらも、真司は諦めない。腹に力を入れ、平静を装う。

「いやいや、俺のことは別にいいから。喧嘩は———」

「———生意気だな!やっぱりお前も一発ぶん殴ってやるよ!」

 収まりかけていた場の空気が、癇癪玉のように破裂する。真司の言葉など、もう誰も聞こえてはいない。
 大柄な少年が、赤毛の少年の胸ぐらを掴んで拳を振り上げた。

 ———くっそ!子どもの喧嘩も止められないとか話になんねぇ!

 真司が再び、赤毛の少年を庇おうと、一歩踏み出した瞬間に、何者かがこちらへ駆け寄る足音がした。

「ま〜た〜お〜ま〜え〜ら〜か〜っ!」

 竹刀を持った女子高生が、茶髪のポニーテールを揺らして瞬く間に近づいてくる。
 尋常な速さではなかった。まるで獲物を見つけた獣だ。

「ゲェッ!?タイガー!?逃げろ!逃げろ!」

「…タイガァ!?」

 真司は、兎のように怯えて逃げ出した少年たちの悲鳴に、銀色の虎を連想した。奴には何度も背後から不意打ちを受けた。トラウマがこの身に、いいや、魂に刻まれている。
 即座に身を翻し、警戒するが、真司の目に入ったのは、迷子の猫の張り紙だけだった。毛並みだけは虎のようである。

「…ねぇ、きみ」

「はい?」

 声をかけられて真司が振り返ると、鼻と鼻が触れ合うくらいに寄せられた女子高生の顔が、まさに眼前に広がっていた。その瞳が好奇心に輝いているのが、よく見える。

「うおわぁ!?」

「おっとっと、結構良いリアクションするねぇ!」

 驚いて尻餅をつきそうになった真司の手を、女子高生が掴んで引き留めてくれた。
 子どもの体とはいえ、片手で真司を支えても、女子高生は全くバランスを崩さない。
 華奢に見える体でも、体幹がしっかりと鍛えられているあたり、その手に持っている竹刀は飾りではないのだろう。
 真司の手を離して、女子高生は屈託のない笑顔でお礼を言ってきた。

「うちの愚弟を助けてくれてありがとね!…ほら、ぼさっとしてないで、あんたもお礼言いなよ!」

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