この雰囲気を
「今日、そこを'宿泊'で取ってある。」
「はい?」
あまりにも真剣な目で言うので、疑ったわけではなかったが、当然'日帰り'だと思っていた俺は絵に描いたように驚いた。手に取った冊子を改めて見ると、そこには俺でも聞いたことのあるホテルの名前が、上品なデザインで書かれていた。
「宿泊ってお前・・」
「あの、色々思うところあると思うんだけど、まず聞いてほしい。・・・ごめん、やっぱ車の中の方がいいかも。」
「お、おう。」
そう言うと川崎は身を翻して、車へ戻っていく。え?宿泊?日帰りじゃないの?どういうことなの?いや、確かに車以外任せたのは二人で話したことだし、文句は一切言えない気もするが。また別のことを考えると、宿泊であることが、川崎が元気ないことの理由なのか?などと、思考をあちこちと向かわせながら、川崎に合わせて車へ戻る。
「あ、そうだ、特にコンビニ買うものない?」
「わからん。まずは話を聞いてからだろ。」
「そ、そうだよね。じゃぁ経緯から話してもいい?」
「ああ。」
「ちょっと長いけど。・・そもそもの原因はね、京華なんだよ。」
「けーちゃん?」
宿泊とけーちゃんが関わる、と聞いても、突飛な想定しか成り立たないので、やはりここは聞く以外の取れる手段はないようだ。
「そう。私も特に意識せずに日帰りだろうなと思いながら探しててさ、色々候補があったから、メモしてたのね。そしたら、京華がうちに来たときに持ち出してて、お母さんに見せちゃったんだよ。それが原因。
ほら、前言った通り、ありがたいことに、母親は今私にすごく甘やかしてくれてるからさ。そのせいだと思うんだけど、ちょっと前に一つ質問されてね、質問について今はちょっと言えないんだけど、とにかく、その質問に答えたら、あとはやっておくからそこのホテル行きなさい、って。実は私も理解し切れてない部分多いんだけど、
お母さんとしては'ゆっくり泊まって来なさい'ってことらしくて。」
「それはまぁ、なんというか・・。」
川崎の説明で腑に落ちた部分もあった。けーちゃんの暴走、母親の今まで苦労かけたからという理由の甘やかし、それらが相まって、ホテルを取っているという事実に繋がったわけか。
「それで、そっから私どうしていいかわからなくなっちゃって。すぐに比企谷にどうする?って聞けばよかった話なんだと思う。でも、そもそも泊まるっておかしいかな、とか、でも日帰りって少し寂しい気もしてたし、お母さんの想いを無駄にしたくないし、そもそも私はどうしたいんだっけ、とか色々考えてたら、今日になっちゃっててさ。・・・私、すごく感じ悪かったよね。ごめん。」
「いや、別にいいが・・」
ん?なんか自然と変なこと言ってなかったか?寂しい?それより、今は確認すべきことがある。
「それで、元気なかったのか。」
「うん。今日会う前から、いつ言おうかって迷ってて。でもここまで来たら何もかも遅いとも思ったから。正直、困ってた。」
「まぁ、確かに泊まる準備はしてないが・・」
「ね、そういうのもあるじゃん。
だからさ、これも私からの提案ってことでいいんだけど、できれば、その・・・」
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