2つ目の願い
「か、川崎、これはぐわっ」
少し苦しいレベルまで抱き締められると、声を出すのも憚られるような密着率となってしまって、俺はもがもがともがるしかなかった。
世界で一番優しんじゃないかと思えるような声音が、耳に届く。
「ごめんね、比企谷。私も押したり押せなかったり、照れたり、頑張ったり、って振り回しちゃったよね。でも今はもう逃がさないから。ゆっくりでも、分かってもらうまで、ちゃんと話すから。」
声を出せない俺は、なるべく川崎を揺らさないように頷く。
「でも、き、キスまでした女の子に対して、だろうな、はひどいと思うよ?私だって傷付くんだからね?・・って言っても、今はしょうがないか。まずは聞いてよ。」
自分の言葉が川崎を傷付けたという事に対して想いを馳せるが、いまいち自分な中で歯車が噛み合わない。川崎が震えていることに気付いた俺は、震えるくらいのことであれば、すべきではないと考え、自分が震える理由になっているなら、その位置からすぐにでも離れるべきだと感じ、結果、川崎を傷付けたということになる。
自分がぼっち故に足りていないことは自覚しているつもりだった。だから間違えていないと、傷つけるべきではないと、そう思ったのに。。
「ほら、まだ夜も更けているわけじゃないし、明日も休みだし、ていうか旅行先だし、まぁ落ち着こうよ。って、これ自分にも言ってるんだけどさ。」
はは、と自嘲するように笑う川崎を、俺は好ましく思う。先ほど温度の下がった川崎を見るのも話すのも、俺にとっては苦痛だったからだろう。
「ね?」
そう言いながら、抱き締めた力を緩めると、川崎は俺の顔を覗き込むように顔を寄せてきた。あまりに近い距離でもちろんのこときょどりはしたものの、温度も伴った声の安心からか、その目を見ながら応えることができた。
「・・わかった。すまん、そんなつもりはなかったんだが、な。ゆっくり話せれば、と俺も思う。」
「ん、いいよ。ありがとね。」
さて、と川崎は再び俺を胸に抱く。
たくさんぶっちゃけちゃうけど、と前置いて、川崎が語り始める。
「まずは、震えてた部分かな。」
と言うと、このー、と、息ができないほど強く締められた。く、くるしい。
でもそれも数瞬のことで、再び慈しんだ力加減となる。
「当たり前でしょ?私だって、男と旅行だってドライブだって、一緒の部屋に泊まるのだって、初めてのことなんだよ?しかも、その、ああ。・・・一旦、答えとかはいらないんだけど、、、す、好きだな、と想えている人とさ。・・・ここまではOK?」
・・・全然OKじゃない、と思いながら、これまでのことを振り返る。一点を除いて、それは俺の希望的観測を承認するものである、と判断できた。川崎とのことを振り返れば、甘いSSも真っ青なことがいくつもあった。ただそれを得意の想像で躱し続けてきただけのことだ。真っ直ぐ捉えれば、それが好意からくるものだった、ということは頷ける。
「・・・んん、まぁ、なんだ、一旦、な。」
「よろしい。良い子だね。」
そういって川崎は俺の頭を撫で始める。やめてなにこれ、超恥ずかしい!撫でることは続けながら、川崎は話を続ける。
「比企谷がどう思っているかは、まぁ、今は聞かないとしても、私としては何とか振り向いて欲しくて、でも怖くて、でも期待したくて、でも自信無くて、みたいな繰り返しなんだよ。・・きっとさ、そんなはっきりしない私の行動とか言葉?とかが、比企谷を気持ちを振り回しちゃったんだと思う。私が震えてたとしたら、それは自信が無いから、それだけだよ。
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