七話
夜叉神天衣に対してどんなイメージを持っているかと聞かれると、真っ先に思い浮かぶのは口の悪い小生意気なガキというのが第一印象だ。
ある意味では雛鶴あいよりも子どもらしい、素直じゃない女子小学生。
正直、私は夜叉神天衣とはあまり関わりはない。
もちろん棋士としての彼女の実力は実際に直接対局したこの身を持ってよく知っている。
彼女との対局は私が指してきた将棋の中でも特に印象に残るものだった。
彼女もまた、雛鶴あいと同様に将棋の神様に愛された棋士だ。
だけど、どんな人柄かと聞かれると答えにくい。
彼女はあの小童ほど八一の傍にずっと一緒にいた訳じゃないから、必然と彼女と私が出会う機会も少ない。
一応は同門なのに、あの時のマイナビで対局するまで実際に会話した事すらなかった気がするほどに。
その後も似たような関係性が続いた。だから私は彼女が実際にどんな子なのか詳しくは知らない。
だけど、そんな夜叉神天衣をよく知らない私でもこれだけは断言できる。
「”はじめまして”知ってると思うけど、そこの”九頭竜くん”の姉弟子の空銀子よ」
少なくとも私の知る夜叉神天衣は、八一に抱き着いて媚を売るような猫なで声で名前を呼ぶような少女じゃなかった。
───同じなんだ、夜叉神天衣も。私や、雛鶴あいと同じように『指し直し』を願ってしまったんだ。
雛鶴あいのような二人目がいるなら、別に三人目がいたっておかしくない。
むしろ四人目や五人目すらいる可能性だってある。もう今更驚いたりはしない。
……いや、まあ、流石にないか。
「”はじめまして”天ちゃ……天衣ちゃん。ししょーから聞きました。わたしと同じ名前なんだね。九頭竜せんせーの”一番”弟子になる予定の雛鶴あいです」
未だに八一の腰に抱き着きながらこちらを見て固まる夜叉神天衣にとりあえず自己紹介を済ませる。
一応、私たちは初対面なのだから。
私に続いて小童もにこやかに挨拶した。
間違いなく目は笑っていなかったが。
ふん、まったくこいつは相変わらず子どもね。そんな露骨に威嚇したら八一に不審に思われるだろうに。
私みたいにもっと自然体に振舞えないのかしら。
「ちょ、ちょっと二人ともなんでそんな怖い顔してるの!?」
「は? してないし」
失礼ね。自然に自己紹介をしただけなのに。
「いやいや、何言ってるんですか。獲物横取りされた獣みたいな目で睨んでたじゃないですか!」
………。
「そんなのはどうでもいい。それより、いつまで引っ付いてるつもり?」
とりあえず今は変な言い掛かりをしてくる弟弟子を無視する事にした。
固まっていた夜叉神天衣が、ようやく状況を飲み込めたのかワナワナと体を震わせた。
「な、なんで、ど、どういうこと!? 説明しなさいよ! 師匠!?」
「どうって言われても……あと、まだ師匠じゃないからね?」
焦った様子で夜叉神天衣は抱き着きながら問いただすように、八一の彼を体を揺さぶる。
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