ハーメルン
OVER LORD<流星の剣>
幕間の物語~その零 駆け寄る足音はいまだ遠く~

 アリシアの故郷。
 ナザリック地下大墳墓が転移してきた大陸から海を挟んでずっと遠くにあるその大地はテラースフィアという名前だ。
 大陸と続かないのはテラースフィアに住む人々は海の向こうに別の大地があると知らず、自分たちが住む大地こそが世界の全てだと認識していたからだ。
 そんなテラースフィアはいくつかの世界で成り立っている。文化の違い、生活圏の違いで自然と分かれた世界の一つに三国同盟という国がある。
 三国が同盟を結んで一つの国になった……わけではなく、国という形態になる前、ギルドという形であった頃にそういう名前をつけてしまったからという由来の国名を持つ、その国の練兵所。
 そこではその時壮絶な決闘がついに終わりを迎えていた。

 「私の───勝ち」

 まるで今から戦が始まるような布陣をしく東西の両軍の兵士たちはその勝鬨を聞いた。
 兵士たちの視線の先では勝鬨をあげた人間が誇らしげに胸を張っている。チャイナドレスを押し上げるように実った胸をが示す通りその人間は女性だった。
 名前をフェイリン。
 この国の姫として生を受け、その天真爛漫な性格と母親似の美貌で国中の人間に好かれているお姫様だ。
 そんなお姫様は勝利の証である獲物を高々と掲げた。
 
 「青龍偃月刀、とったぞォォォ!!!」
 
 ──う、うぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!

 フェイリンの勝鬨に応えるように西の兵士たちが勝利の声をあげた。
 そんな声じゃ足りないとばかりにフェイリンは飛び跳ねて勝利の声をせがみ、それに応えるために西軍の兵士が、そしてフェイリンから指示を受けた東軍の兵士が声を張り上げて叫ぶ。
 その中には涙を流す者もいるが勝利の喜びに沸く兵士たち、というふうにはみえない寂寥が垣間見えるものであった。
 フェイリンが勝利した。それはこの国の兵士たちにとって寂しさを感じさせずにはいられないものだ。
 今日この時の勝敗が意味することはフェイリンの一人立ち、旅立ちであった。

 勝てば一人前と認め旅立つことを許す。
 負ければそれを許さない。

 近隣諸国の中で武力をもって和をなす立ち位置である三国同盟の姫に相応しい最後の試練であった。
 相手をつとめたのはその試練を命じた母親であるサクラだ。
 ミカゲ・サクラ。三国同盟の現在のギルド長代理であり、国王でもある彼女はユグドラシルからこのテラースフィアへやってきたギルドメンバー二人の片割れである。
 ギルド内の役職は<軍神関羽>。本来のギルド長の趣味で古い中国の武将になぞらえられている。
 100レベルのユグドラシルプレイヤーとして三国同盟がいる世界の中でも指折りの実力者であるサクラは歓声をあげる兵士たちとそれを求めて飛び跳ねるフェイリンの姿を眺めて自分の右腕を見た。
 
 (本当に……強くなった)

 肘から先、先程馬上から降りおろした時まで確かに青龍偃月刀を握っていた右腕がなくなっている。
 カウンターで見事に蹴り飛ばされてしまっていた。
 痛みとともに広がっていく何とも言えない寂しさと喜びに耐えるように右腕を眺めるサクラの背中に愛馬であるセキトが頭をこすりつけた。触れた先からセキトの謝罪の感情が伝わってきてサクラは残った左手で少し乱暴にその首筋を撫でた。
 
 「よくやった。お前も、私も……全力だった。あの子が強くなったんだ。ユグドラシルの基準を越えてくるほどに」

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