ハーメルン
番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~
第1話「転生」
机を見て、あ、人間だ、などと思う人はいない。
少なくとも俺は見たことがないし、いたとしたらたぶん病院に行くことを勧める。
人の目は机と人間を一瞬で区別するし、つまりは人間かそうでないかを一瞬で判断することができる。
だから俺は、その爺さんを見たとき一瞬で理解した。
あ、この爺さん。神様だわ。と。
あたりを見回した時、俺は一面の真っ白い空間にいた。
ここがどこなのかも、ここにきた経緯もわからないが、いつの間にか俺は神とそこで向かい合っていた。
杖を支えにこちらを見据えている。白い白髭を蓄えた、荘厳な様相の爺さんだった。
神は俺の目を見て、厳かに話し出した。
「さて、今、君の耳には何が聞こえるかね?」
問われるまま耳をすませてみる。
「……『ときめきエクスペリエンス』ですかね」
なぜかBGMに、『ときめきエクスペリエンス』がかかっていた。
バンドリという、アニメやゲームでメディアミックスしている一大コンテンツ。その中で主人公たちの演奏する曲目の一つだ。
アニメ版バンドリのOPでもある。
「そう、神曲だ」
「はぁ……」
いい曲なのは確かだが、神曲というには個人的嗜好がだいぶ絡むだろうなぁ。
しかし神が断定しているのならば、間違いなく神曲なのかもしれない。
「こう見えて、わしはバンドリが大好きでね、ライブにもよく行くんだ」
「そうなんですか。バンドリのライブはいいですよね」
「うむ」
適当な相槌を打つと、神は満足そうに頷いた。
個人的にはOPなら、アイマスの『Ready』の方が好きなんだけど、ここでそんなことを言わないだけの分別はもちろん俺にはあった。
神がバンドリが好きでライブにもよく行っているという意味不明に、わざわざ言及しないのも、言うまでもない。
「ライブといっても、現実のライブではないぞ。
作品の中に入って聞く、キャラ達の歌う生ライブじゃ。
わしは神だからな。そんなことも当然できる」
「それはそれは。うらやましいことです」
できるというからにはできるんだろうなぁ……。
「しかしな、先日のライブに行くためにアニメ版バンドリに潜ったときに、ちょいとやらかしてしまってな」
「といいますと?」
「帰り際に、ちょっと作品の輪郭に杖を引っ掛けてしまってな。
それでできたキズによって、現実世界からバンドリ世界に良くないものが流れ込むようになってしまったのだ」
「……良くないものとはなんでしょうか?」
「芸能界の闇だよ」
神が両手を広げると、その間に何やらおぞましそうな黒い塊が現れた。
それからは、見る物を嫌悪させるーー生物の根幹に語りかけるような悪意を感じる。
これが芸能界の闇……一体なんだというのだろうか。
「つまりは、暴力・セックス・ドラッグじゃ」
以外と俗っぽい物だった!
「このせいで、清らかなバンドリ世界が、芸能界の闇に汚染されてしまったのだ」
「すると、どうなるのでしょうか……」
「うむ。このままでは、バンドリの世界はひどいことになってしまう。
よいか? 現実でガールズバンドなんて、結成してみろ。
バンドをやる可愛い女の子たち。それも全員目をみはるほどの美少女! 現実にいたらあっという間にイケメンどもに食われてしまうわ!
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