ハーメルン
番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~
第14話「それぞれのお話」

「あれーっ。おたえ、今日も帰っちゃうの?」
「……うん。ちょっと用事があるから」

言葉を濁すと、おたえはトランペットを片付けて逃げるように帰ってしまった。

「うー。おたえ最近ちょっと冷たいよ〜。
 ね、こがねんもそう思わない? あれ? こがねんどこー?」

同意を得るためにこがねんの姿を探したら、いつの間にかその姿もなくなっていた。
さっきまでそこにいたのに!

見かねた吹奏楽部員が教えてくれる。

「こがねさ……んなら、シンバルおいてさっき出てっちゃったよ」
「えーっ! もうっ!」

最近、おたえとこがねんの帰りが早い。ろくに部活にも参加せずに帰ってしまう。
部活以外のーー授業中とか休み時間は今まで通り一緒にいるから、避けられてるってわけじゃないけど、ちょっと寂しいな……

結局、今日の部活を最後までやったのは私だけで、帰りも私一人だった。
とぼとぼ帰り道の土手を歩く。
6月になって日もずいぶん長くなった。
夕日が綺麗だけど、一緒に見る人がいないのは残念だな。

2人がすぐいなくなっちゃうようになったのは、いつくらいからだっけ……
たぶん、2週間前のお出かけくらいからだったかな。

……何かあったっけ?
心当たりは全然ないんだけど、お姉ちゃんは人の気持ちが分からないって、あっちゃんにはよく怒られてしまうから、ひょっとしたら私が原因なのかな?

理由はもちろん聞いてみたよ。

こがねんは、ものすごく焦った様子で、「えっ! すぐに帰っちゃう理由? えーっと、あーっと。そ、そう。ギター、ギターやるんです。バンドですよ。私が天に立つ」とか言ってたから、たぶんギターの練習を鵜沢さんとやってるのかもしれない。天に立つの意味はよく分からないけど、ボーカルでもやるのかな?

おたえは……ちょっとよく分からない。
家の用事があるからって言ってたけど、なんかはぐらかされてる気がするんだよね。
もっと別の理由があるような……でも家庭の事情なら、あまり突っ込まないほうがいいのかな?

おたえとは小学5年生からの付き合いだ。
夏休みが明けた2学期の最初に転校してきて、隣の席に座ったんだよね。

そういえば最近のおたえは引っ越してきたばかりころと、ちょっと似てる気がする。
あのころは今よりずっと無口で、おとなしくて、全然楽しそうじゃなかった。

それを私はなんとかしたいって思ったんだ。

あの時はどうしたんだっけ?

えーと……

「深刻な顔しちゃって、どうしたの香澄ちゃん? 悩み事?」
「あ、三輪部長」

夕日に向かって悩んでいたら、いつの間にか隣に三輪部長が立っていた。
部長とは帰り道が同じということを前に聞いたことがあったけど、今まで一緒に帰ったことはなかった。
いつも一緒に帰っていたのは、おたえとこがねんだったからね。

「最近、香澄ちゃん一人で帰ってるみたいだから、気になって話しかけてみたけど……2人と何かあったのかな?」

重ねて問いかけてくる三輪部長。
その優しさに胸がほだされて、私は最近の思いを吐き出した。

それを聞いて三輪部長は、どこか納得したように頷いた。

「……そうなんだね。たえちゃんとこがねちゃんの早退する理由は、香澄ちゃんも知らなかったんだ」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析