ハーメルン
【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー
3.運命の出会い

「ーーーうん。ここだとよく見える」

 旅館からほど近い、海鳴市の夜景を一望できる展望台に赴いたなのはが、手摺りから少しだけ身を乗り出して呟く。風呂から上がり、浴衣に着替えた彼女は就寝する前に、外の空気を吸おうと抜け出してきたのだ。
 胸元からレイジングハートを取り出し、手のひらの上に乗せて語りかける。

「ねぇ、レイジングハート。聞こえる?」
Yes, I can hear you.(はい、聞こえていますよ)
「ごめんね、ほったらかしにしちゃって」

 家族の前でレイジングハートに話しかけるわけにはいかない。そのため放置する形になったことが申し訳なくなったが、相棒は気にしないでいてくれていたようだ。非常に気遣いのできるデバイスである。
 ちなみにユーノは美由紀に捕まって布団の中に連れ込まれている。恨み節が聞こえてきた気がするが、なのはは苦笑して謝るだけであまり気にはしなかった。

「レイジングハートともお星様を見たいなって思って……一緒に付き合ってくれる?」
【All right.】

 了承してくれたレイジングハートに微笑みを返しながら、なのはは展望台の淵を歩き始める。高く設けられた地面の上から、自分の住んでいる街を俯瞰的に眺めてみた。
 普段の生活で見る街の光とは違う風景に、なのはは不思議な気分になる。自分があの場所にいた時は光の中にいるようで、身近でそこにあることが当たり前のような感覚がしていた。
 だがこうして遠くから見ると、自分の元にはない光を他の誰かが持っているような、自分以外の人々の暮らしというものがありありとわかるような気がする。漠然と感じていた〝誰か〟というものが、目で見て感じられる気がした。

「……このあたりにも、ジュエルシードの反応はなさそう?」
Affirmations can not be but, yes.(断言はできませんが、そうですね)
「そっか……油断はできないんだね」

 思わずレイジングハートを握りしめ、こみ上げる気持ちに息を呑む。ユーノやアインには気にするなと言われてしまったが、やはりジュエルシードの捜索を休んでしまったことに気が咎める。
 もし今、この時にあの街の光に中でジュエルシードが発動したら、間に合わなかったら、そんな思いが頭をよぎってしまう。今は自分たちだけがあの街に巣食っている悲劇の(たね)の存在を知っていて、平和な日常を背負っている。大げさかもしれないが、そんな感覚を覚える。

「21個のうち、封印できたのは5個。残るは16個……まだまだたくさん残ってる」

 4分の1も問題は解決していない、そのことを改めて口にし、なのはは真剣な表情で夜空を見上げる。
 この街を、世界を守れるのは自分たちだけ。そんな実感もわかないような大きな責任を背負うつもりで、なのはは天に拳を強く突き出した。

「ユーノ君を助けるために、頑張らないとね!」
 相棒を、そして自分自身を鼓舞するように力拳を握り、己の意志を改めて口にしたその時だった。

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