ハーメルン
【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー
2.二人の訪問者
真っ暗な闇の中を、一筋の光が突き抜けてゆく。闇の中を走るブルースペイダーのヘッドライトの光がラインを描き、エンジン音とともに余韻を残す。
人気のない住宅地の道路をゆくアインの背にしがみつきながら、なのははアインの背中を見つめていた。肩幅が広く背が高いせいか、とてつもなくその背中は大きく見える。年齢は兄とそう変わらないように見えるのに、醸し出す雰囲気はずっと年上に思えた。
「あの……アルデブラント、さん」
「言いづらいなら、アインでいい。皆そう呼ばせている」
「はい……じゃあ、アインさん。……あ、その、私の名前は高町なのはです」
「ぼ、ボクはユーノ・スクライアです」
「……そうか」
ずっと名乗っていなかったことを思い出し、ようやくユーノとともに名乗ることができたが、それだけで会話が終わってしまった。沈黙に耐えきれず切り出したが、なおも居心地の悪さは変わらなかった。
恩人に対して何も言えず、ずっとアインの腰にしがみついていたなのはだったが、落ち着いてくると次第に申し訳なさが募ってきた。
「……ごめんなさい。迷惑かけて」
なのはがポツリとこぼした謝罪の言葉に、アインは小さくため息をついた。
「気にするな。むしろ君は、危険も顧みずに飛び出して行ったことを反省しろ。志は立派だが、力のない君じゃどうなっていたかわからんぞ」
「うう……」
「そうだよ。……それに本当は、僕が悪いんだから」
「あ、ち、違うの! そんなつもりで言ったんじゃないの!」
うつむくなのはをユーノがなだめるが、今度は彼のほうが落ち込んでしまった。なのはは自分が落ち込ませてしまったと思ったのか、慌ててユーノを抱き直して目を合わせる。そしてまた配慮の足りない自分に嫌悪を抱き、表情を暗くさせた。
アインは互いを慰め合い後ろで勝手に暗くなる二人に呆れ、ヘルメットの中で半目になって前方を見据えた。
「その辺にしておけ。とりあえず、話はついてからにしよう」
「……はい」
静かに二人を諌めるアインに、なのはもユーノもそれ以上口を開かなかった。
それでも二人の表情が晴れることはなく、落ち込んだままバイクに揺られている。アインは雰囲気だけでそれを察し、今度は少し厳しめの声で二人に告げた。
「それにな、君たちに何かあれば悲しむ家族がいることを忘れるな。……絶対にな」
最後の一言により強くこもった実感を捉え、なのはとユーノは困惑しながらも頷く。二人のことを思っているというよりは、自分がそんな光景を見たくないと言っているような気がしたのだ。
自己嫌悪の念から抜け出たなのはは、ユーノを大事に抱きしめたままポスンとアインの背中に身を預ける。その時に感じたものに、なのははひどく既視感を覚えていた。
(この感じ、前にも感じたことがある……なんでだろう……? でもすごく安心するような)
しばしアインの背に体を預け、なのははバイクが止まるまでの間に安堵に浸っていた。
しばらくして、アインのバイクは高町家の門の前に到着した。近所に配慮し、なるべくエンジン音を抑えてもらったなのはは、姿勢を低くして忍び足で門に手をかけ、音を出さないように気をつけながら入っていく。
心配をかけたくないばかりに黙って出てきてしまったが、気づかれないように静かに出てきたためバレてはいないはず、と思っていたなのはの背中に、アインが呆れた視線を送った。
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