そして私はピエロに怯える
ヌメーレ湿原、そう呼ばれる場所に私たちは居た。
別名『詐欺師の塒』とも呼ばれ、人間すらも欺き食す、狡猾で危険な動植物たちが生息している。
そんな湿原を眺めながら私は憂鬱な気分になっていた。
「はあ……なんかジメジメしてて嫌だぜ。早く出発しないかな」
ため息をつきながら試験官のサトツを眺める
一番最初についたため後続の連中が到着するまでの間少々暇なのだ。
受験者は数百人いるため、それなりに時間がかかっている。
大体4列か5列くらいに並んでるから、80行くらいだろうか。
それが、1行毎に1秒としても80秒。
先頭が出入り口付近で立ち止まっているので渋滞しているのも加味して、体感にして5分は待っただろうか。
ただ待っているというのは中々の手持ち無沙汰だ。
そう思いながら、ふと先ほど登ってきた階段の方を見ると、汗だくになり這いながらも上る受験者の目の前で階段の隔壁が閉まるという、そこそこ面白そうな光景が見れた。
運がいいな、あの人。
ほぼ確実にここから先ついてこれないし、来年頑張りな。
そんな感想が頭に浮かんだところでサトツがこの場所についての説明を始めた。
曰く、ここの生き物はあらゆる手段で騙そうとしてくる。
だから、騙されずついてこいよとのことらしい。
まあ、知ってるけど面倒だよな。
大丈夫だろうと思いながらも、もしかしたら騙されてたどり着けないんじゃないかと少々不安になる。
魔獣的なのと正面から戦ったことは少々あるが、こういう『強かさ』みたいな感じのはあまりない。
だからこそ、ちょっと面白そうとも思わなくもないが今の目的はハンター試験の合格であり、そういうのを調べるのは二の次だ。
気をつけようと、気合いを心の中で入れると後ろの方から声が聞こえた。
「ウソだ!そいつはウソをついている!」
その声に全員振り返ると、階段の陰からボロボロの男が出てきたのが見えた。
「そいつは試験官じゃない!!俺が本物の試験官だ!!」
その男はサトツを指差しながら私たちにそう告げる。
それを受け、受験者たちは動揺していた。
試験官の方を見て疑うものもおり、ザワザワと混乱する。
そして、男は人間に似た動物の死体を前に出し私たちに告げた。
「コイツはヌメーレ湿原に生息する人面猿!コイツは新鮮な人肉を好むが非常に力が弱い。そこで人に扮し、言葉巧みに湿原に連れ込み、他の生物と連携して獲物を生け捕りにする!!」
……凄いなコイツ。
知識として私はコイツが偽物だと知っている。
見比べればオーラで偽物だと分かる。
でも、知識がなければ、『念』について一切知らなければ私は騙されていたんじゃないかと思うくらい、コイツの言葉には重みがあった。
おそらく命がけの環境であるがゆえに身についた話術だろう。
よく、命がけの修行というがコイツがやってきたのは命がけの実戦。
人間を言葉巧みに騙し、失敗すれば殺される。
そんなハイリスクハイリターンの中で磨かれてきたのだろう。
かなり油断できないなと、この先にいる生物に対し気を引き締めていると、何処からともなくトランプがその男に飛んでいき顔に突き刺さった。
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