第六話 船酔いに備えて酔い止めは準備しておこう
沈黙が一帯を支配していた。私の見える視界は辺り一面真っ白な雪に覆われた大地のみだ。仮に動くものがあるとすればせいぜいが1世紀半も前に初期入植者が持ち込みそのまま野生化した山兎位の物だろう。
私は、静かにスコープの解析度を調整する。帝国軍の主力ブラスターライフルであるモーゼル437を基に亡命軍が作ったゲーベル17は大量生産前提のモーゼルシリーズをコストと引き換えに再設計したものだ。当然性能はこちらが上だ。
殊、宇宙戦艦等の大型兵器はともかく、個人携帯装備に限れば実は亡命軍の装備の質は悪くない。
大量生産が必要かつ艦艇等より重要な装備があるために帝国も同盟も個人装備にかけられる予算が限られている。一方兵力に限りがあり地上戦の機会も少なくない亡命軍はこの手の装備に比較的贅沢な予算をかける事が出来た(艦艇の新規開発は諦めて鹵獲品と同盟製を使っている)。むしろ一部の装備には同盟地上軍に輸出する逆転現象が起こったものすらある。
ゲーベル17もまた基になった帝国軍の、それの4割増しの値段だがそれ以上の性能を有する逸品だ。
私は対赤外線コーティングの為された雪原戦用迷彩服に身を包みうつ伏せの状態で目標を狙う。大昔ならもっと難しい計算がいるのだろうがデジタルスコープは、風量や温度、湿度、重力計算を自動でしてくれる。人間が行わなければならない計算は遥かに少ない。
まぁ、それでも滅茶面倒なんだけど。
私は、西暦時代の狙撃手が聞けば跳び膝蹴りされそうな事を考えながら再び目標に神経を集中させる。
スコープの中の目標がぼやけたそれからクリアになるのに合わせ私は深く呼吸する。……教官曰く呼吸も狙撃の精度に影響するとか。
「……!」
引き金を引くと共に青白い熱線が目標を貫いた。
私は立ち上がり首もとの防寒用マスクから口元を見せると呟いた。
「あー、こりゃ駄目だね」
約250メートル離れた人形の的、その横腹に弾痕が刻まれていた。つまり、致命傷ではない。減点対象と言うことだ。
ヴォルムス北大陸北部降雪地帯、私達帝国亡命政府軍幼年学校4年生はこの地で修学旅行(と言う名の課外講習)を受けていた。
因みにに去年は東大陸の砂漠地帯だった。サバイバル術の実習とコルネリアス1世の攻撃で廃墟になった旧星都(というか東大陸自体この攻撃で砂漠化したわけだが)の見学という糞内容だったが。
修学旅行すら娯楽性皆無とか笑えますよ。勤勉過ぎるわ。
「流石若様です!総合得点715点、尊敬致します!」
狙撃試験を終えた私のもとに駆け寄る従士さん。この点数は学年の上位3割に辛うじて入る点数だ。
え、ベアトは?おう、総合点数904点、学年19位だそうだよ?
一見嫌みのようにも思えるベアトの態度、しかし知っての通り真性だ。どういうフィルターかかっているんだろうね?
「思いのほか良い点じゃないか?」
ライフルを肩に乗せたアレクセイが感心した表情でこちらに来る。
「昨日教官にみっちりしごかれたからな」
私は昨日一人カプチェランカ帰りの教官の特別講習を受けた身だ。帝国と違い亡命軍では貴族の面子を守る事は点数評価を甘くするのではなく恥をかかないレベルまで指導する事を意味していた。
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