仕える者として
「こんな言葉を知ってる?」
戦車道の訓練が終わった後のお茶会。ダージリンが、水上の淹れた紅茶を一口飲んでからこんなことを言ってきた。
「『撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心』」
「西住流のモットーですね」
オレンジペコが、ダージリンの言葉に続く。水上は、何のことだかさっぱり分からない、といった具合に顔を傾げる。
「西住流は、島田流っていう流派と双璧をなす、戦車道の名門よ」
アッサムが補足するが、水上はそれでもまだ理解が及ばない。戦車道の事に関しては、文字通りの門外漢だ。一度砲手を務めた事があり、戦車道の給仕としてダージリンたちの傍にいた水上でも、流派がどうとかそう言う詳しい事は分からない。
「・・・要するに、統制された陣形と、圧倒的な火力をもって敵を撃滅する、強力な戦術を取るってわけよ」
「・・・なるほど」
言わんとしている事は、なんとなくわかる。要するにガンガン攻めてバンバン撃って敵をやっつけるという事だろう。
「で、アッサム。作戦の方はどう?」
ダージリンが尋ねるが、アッサムは苦しそうな表情をして首を横に振る。
アッサムは膝の上にノートパソコンを乗せている。テーブルの上にはお菓子が広げられているが、アッサムの周りだけは代わりに過去の試合の資料などが並べられている。
アッサムは、来るべき黒森峰女学園との準決勝に向けて、作戦を考えていたのだ。過去の黒森峰女学園の戦績、所有する戦車、隊長の人柄、それら全てを考慮した上で、作戦を立案する。それが、参謀であるアッサムの役割だ。
「いくつか考えましたが、どれも成功する確率は極めて低いです。良くて勝率は、40%と言ったところですかね」
アッサムが告げる傍らで、水上は舌を巻く。この短時間でいくつもの作戦を考えた事が、素直にすごいと水上は思っていたのだ。もし自分がアッサムと同じ立場になったとしても、1時間かけて作戦を一つ考えるのが関の山だろう。
「厳しい戦いになりそうですね・・・」
オレンジペコがそう呟いて紅茶を一口飲む。アッサムは小さく伸びをして、テーブルに置いてあるジャファケーキ―――ビスケットの上に薄いオレンジのゼリーとチョコレートがコーティングされたお菓子―――を1つつまむ。
「本当なら潜入してでも情報を手に入れるべきだったんですが・・・私の風貌は黒森峰には溶け込めないようで」
アッサムが忌々し気に自分の金髪をいじる。
黒森峰女学園は真面目で勤勉という校風で通っている。故に、生徒の中には髪を染めている者などおらず、金髪の生徒など皆無、ほとんどが黒か茶髪だ。副隊長の逸見エリカは銀髪だが、あれは生まれつきだろう。
そんな中に、生来金髪のアッサムが混じればすぐにばれてしまうに違いない。
「その、良くて勝率40%の作戦とは、どんなのかしら?」
ダージリンがアッサムに尋ねる。アッサムは、パソコンを操作して、考えた一つの作戦を提示する。
「黒森峰女学園は、ご存知の通り西住流の教えに忠実です。故に、正面から高火力の戦力で相手を殲滅する浸透突破戦術を取る傾向があります」
アッサムの言葉にダージリンとオレンジペコが頷く。水上は、空になったオレンジペコのカップに紅茶を注ぐ。
「黒森峰のフラッグ車も、同じように前線に出て指揮を取っているのが、過去の試合の資料からも分かります。プラウダのように、フラッグ車だけを安全地帯に配置する、という戦術は取りません」
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