第十四話 見当違いなユメを見る
「く……うぅ……」
魔法陣のような円形の幾何学模様の中心。そこには所々重度の火傷を負った少女が身を伏せ、痛みのせいで現状把握に回す思考リソースもない。周りを見ることもなく蹲るその少女を、金髪の男が顔を覗き見る。
「クロエ、じゃない。か……」
レオン・クロムウェルはその少女の容姿を見て、自分の大切な人ではないことを察した。
「クソ!数十年条件の絞り込みをしてこの精度かっ」
異世界からの召喚失敗を嘆き、レオンは怒りを壁にぶつける。そう、この魔法陣はとある魔人の書架から見つけ出した異世界からの召喚をなす知識の再現である。しかし、その精度は見ての通り。そもそも、何処の何時に飛ばされたかも分からない特定の個人を召喚することは不可能と言っても過言ではないほど可能性が低い。だからと言ってレオンが諦められるはずもない。
「また条件の絞り込みからか……。この工程は省略できないのか!」
レオンは踵を返し、もう何度も試して現状手がないことを掘り返す。残念ながら、異世界からの召喚という知識は発展する必要性がないこの世界において、全くと言っていいほど研究されていない。その知識自体、召喚能力に特化した者が偶然にも見つけてしまった奇跡のような物であり、その際のことを珍しいケースとして詳細に記されただけに過ぎない。
「異世界から君の身勝手で呼びつけておいて、目的の人じゃなかったら「チェンジで」って?まさに悪魔の所業だね、白金の悪魔?」
唐突に現れたカイに対して、問答無用に光線を放つ。儀式場の壁が穿ってしまおうがお構いなしだ。もちろん、カイがそれに当たるわけもなく、立ち位置が一瞬で変わっている。
「お前こそ呼んだ覚えがないぞ、クソ野郎」
「僕の名前は八倉海だよ?五文字くらい覚えられないのかな?」
レオンは当たらないことが分かっていても幾筋の光線を放つ。虚しいことに、カイの不気味な笑顔が消えることはない。
「何の用事だ、カイ・ヤグラ!消されることが望みなら大人しく的になれ!」
「嫌だなぁ、僕を自殺志願者みたいに。それと、もう少しその光を操れるようにした方が良いと思うよ?真っすぐ飛ばしたり、拡散したりじゃ芸がない―――って、全くせっかちだなぁ。用事ね、用事」
言葉の最中も関係なく光を放つが、壁に穴が増えるだけだった。
「そこの死にかけの少女、どうするのかなって」
「はっ、知ったことか」
「君が呼び出しておいて、人違いだったら無関係って?自分のしたことの責任も取らないのかい?これは酷い話だ。君の思い人が聞いたらどう思うだろうねぇ。そんな人でなしになっちゃった人を、家族って呼んでくれるのかなぁ?」
「……っ」
「おいおい、僕を睨むなよ。僕はちょっと疑問を述べただけだよ?僕に怒りを向けるのはお門違いさ。だって、責任を取らない君が悪いんだからね。もし僕が君の思い人に、君の悪事を全部教えようと考えても、君が悪いことしたせいさ。僕は悪くない」
カイの怒りを煽るような発言にレオンの我慢の限界を迎えようとしたが、その会話を割くような音が混じる。
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