二人目の同族
ルーマニアにアリスを残し、俺とイレアナの二人はイギリスのコーンウォールへ空路で向かった。
いつもと違いクリスティアンはルーマニアにいる。アリスほどの要人を放って俺たち全員が結社を空けるのは流石にまずかったからな。
人ごみの中を歩きつつ人を探す。今回もイタリアの時と同じく迎えが来るという話だったし、勝手に向かうわけにはいかない。今回の相手は同じカンピオーネ────それも、同世代の中でも古株に入る男だ。それを抜きにしても、交渉が必要な相手に悪印象を与えるのは悪手だし。
十分ほど歩くと、空港のロビーに出たが────人の流れが何かを避けているように動いている。それに呪力の気配もする。なんだ?
違和感は感じつつも危険はなさそうなのでそのまま進むと、空港を出てすぐのところに一人の男が立っていた。彼の周りだけは人の流れがそれて開けている。どうやら軽い人払いのようなものでもかけているしい。
黒い背広を着た、彫りの深い端正な顔立ちの男だ。年齢は三十代後半くらいだろうが、しなやかな鋼を思わせる筋肉の付き方は間違いなく戦士のもの。立ち居振る舞いからして、この世界で会った人間の中ではトップクラスの強者だろう。間違いなくクリスティアンより強い。
「ルーマニアの王たる遠山様と、その眷属であるイレアナ殿とお見受けします。遠路はるばるようこそいらっしゃいました。我ら『王立工廠』はあなた様方を歓迎いたします。私は副総帥を務めておりますアイスマンと申します。以後お見知りおきを」
流麗に一礼し、良く響く渋い声でそう言った男━━━伝説とまで言われた騎士サー・アイスマンにこちらも返礼として改めて名乗る。
「ルーマニアで魔王をやってる遠山キンジだ」
「我らが王の第一の下僕、イレアナ・ルナリアです。サー・アイスマン、あなたのご高名はかねてより聞き及んでおりました。お会いできて光栄です」
あまり感情を表に出さないイレアナにしては珍しく、興奮で頬を上気させている。行きの飛行機で聞いたことが事実なら、世界でもトップクラスの実力者だというから無理もないが。
「では、我らの本拠にご案内します。我らが主が待っておりますので」
そのまま用意されていた車に乗り、セントアイブスの片田舎へ向かう。車の窓から見えるのは広い平野と木々、そしてゆったりと流れる川。見事な夕焼けで赤く染まっていることもあり、まさに絵本に描かれているような風景だ。前にイギリスに来た時はロンドンしか見てないから、こんな景色は新鮮だな。
そんな風光明媚な田舎道を走ること数十分。日が暮れて満月が昇り始めたころにアレクの待つ『王立工廠』の博物館に到着した。
外観は歴史を重ねたイギリスの古民家といった趣の建物だった。瀟洒な外観とあたりの風景が相まって、博物館にふさわしい落ち着いた雰囲気を醸し出している。
だが、博物館の中から強い呪力が感じられる。中に入る前からここまで分かるとなると、相当に強力な呪具があるか、よほど数が多いかだ。
「ようこそ、王立工廠へ。このまま正面玄関からお入りください。ああ、もちろん入館料はいただきませんよ」
車を降りたアイスマンに促され、エントランスに入る。そう言えば、カッツェのとこに連れてかれたときは入場料を取られたっけな。今となっては懐かしい記憶だが。
埒もないことを考えつつ、アイスマンに従って通路を歩く。展示されている物品は刀、鏡、古文書、楽器など様々で、古美術品に関して門外漢である俺ですら価値があると思える品ばかりだった。ジーサードを連れてきたら、この場でヒスってたかもしれん。
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